第17話 JD

 翌朝、出勤すると、みんなが集まってパソコンの画面を見ていた。

「小春ー、おはよー」

「あれ、皆さん、何をしているんですか?」

「おう、アームストロングは、SNSのシマッターのアカウントも持ってて、そのフォロワーの中に、ジャン・ダントリクらしい奴がいるんだよ」

「俺が見つけたんだ」

 高木先輩は自慢げに言った。

「こいつだよ。JD。ほら、国際インターナショナル大学院出身って記載がある」

 高木先輩はJDという登録名のアカウントをクリックした。

「フォロワーが5万人超えてるのに、よく見つけられましたね」

「JDってアカウント名だったから、すぐにわかったんだよ」

「すごいですねー、高木先輩ー」

「刑事の勘だよ」

「さすがー、マッチングアプリで出会いを求めてるだけありますねー」

「え、いや、磯田、何言ってんだ」

 高木先輩は焦った。

「先輩はー、女子大生好きですからー、JDって名前に目が止まっただけなんですよねー」

「いや、いや、違う、違う」

「先輩のスマホの待ち受けのー、ハート型のキラキラ光ってるアプリー、目立ち過ぎですよー」

 高木先輩は目が点になって言葉を失った。

「おう、こら、高木!」

 係長が高木先輩にガンを飛ばした。

「はいっ! すみませんでした、つい出来心で」

「そんなのやってるんなら、俺も交ぜろ!」

「……」

 場がシーンとした。

「あーもうー、最悪ー、このおっさーん」

「村田係長、警察官として、出会い系をやるというのは、いささかいただけないですなあ」

 課長がいつの間にか私たちの後ろにいて、係長に注意した。

「あ、いえ、刑事として、裏の事情も知っておかねばなりませんので、あくまで職務の一環としてであります」

 係長は敬礼しながら返答した。

「あー、200%、うそー」

「おう、そんなことより、仕事だよ仕事」

 はぐらかしの達人が話をはぐらかして話題を変えた。

「おう、でよ、さっき見てて気になったのが、これだよ。ダントリクとアームストロングによるこの一連のやり取りだ。他のフォロワーと喧嘩になってる」

 係長が言ったが、英語で投稿されたコメントだったので、私は全くその内容を理解できなかった。

「係長ー、なんて書いてあるんですかー」

「おう、なんか、お前の主張は間違ってるだとか、そういう感じのことだな。……えーと、コメントをずーっと遡っていってと。……彼女に話しかけるな、怒るぞ。何だろ、こりゃ」

「その彼女って誰のことですかー」

「誰のことだろな」

 係長は過去のコメントを読み返していた。しかし、答えが得られなかったらしい。

「だめだ、わからん」

「えー、役立たずー」

「エッフェル塔で会うぞ、ってか。……えーっと、ダントリクはフランス出身だったよな。おっ、あったあった。アームストングが返信してるな。エッフェル塔で彼女とコーヒー飲んだ。何だ、アームストロングはフランスまで行ったのか?」

「係長ー、これがエッフェル塔ってことですかー」

 京子が単語を指差して尋ねた。

「そうだ、『Eiffel』はエッフェル塔のことだ」

「ふーん」

「知人同士のやり取りに、他のフォロワーが横槍を入れてきて、喧嘩っぽくなったみたいだな」

「SNSあるあるですね。なっ、高木っ」

 嶋村先輩が意地悪そうに言った。

「ダントリクとはまだ連絡がつかないようだし。アームストロングがフランスへ行って何をしていたのかシマッターで調べるか。ちょうど一年前だな。おう、高木、嶋村、頼むぞ」

 高木先輩と嶋村先輩はすぐに調査を始めた。そして、刑事課の電話が鳴った。

「はい、刑事課長の山崎です。ええ、はい、わかりました」

 課長がメモを取りながら受話器を置いた。

「村田課長、アームストロングさんの件で、新たな目撃者が現れました。対応をお願いします」

「はい。おう、香崎、磯田、頼むぞ」

 私たちは課長からメモを渡されて、事情聴取に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る