第18話 目撃者
私と京子は、地図アプリを使って目撃者が働いている店までたどり着いた。イタリア料理店「ザ・イタメシ」。
目撃者は、アームストロングさんが転落した雑居ビルの近くのイタリア料理店でウエイトレス兼レジ係として働いている23歳の女性だった。彼女は事件当日の夜から入院していたので、事件を詳しく知らなかったそうだ。
「その日、夕方近くに、店に来る途中、裏の駐輪場に自転車を止めていたんです。そのビルの裏側が少しだけ見える場所だったんです。で、その時、結構大きな声で誰かがしゃべっているのが聞こえてきました。日本語じゃなくて、英語っぽい感じでした。それで、気になって、非常階段の方を見たんです。そしたら、赤い派手なジャケットを着た背の高い外国人みたいな人が、自撮り棒を持って、大きな声でしゃべっていたんです」
「その人は、一人でしたか?」
「はい、一人だったはずです。私は自転車を置いてから、店まで走っていた時に、叫び声のようなものが聞こえたんです。その時、車のクラクションが同時に聞こえてきたので、気のせいだと思って、そのまま店に来て仕事をしていました。その後、体調がおかしくなったので、早退しました。駐輪場に行ったら、警察の車とかが来てたのですが、具合が悪かったので、すぐに病院の救急外来へ行きました」
「そうですか。それで、お体のほうは?」
「はい、重度の急性胃腸炎だと診断されて、一人暮らしなので、入院することにしたんです」
「非常階段から転落するところは見ていないということですね」
「はい」
「わかりました。ご協力ありがとうございました。何かありましたら、また連絡をお願いします」
私たちは店を出た。
「ねえ、京子、おかしな点はあった?」
「あるわよー、小春ー。店の名前よー。ザ・イタメシって、おかしいでしょー」
「えっ、そこ!?」
「それとー、イタリア料理店なのに、チーズの匂いがしなかったわね」
京子は相変わらず天然だった。
私たちは刑事課へ戻り、目撃証言をみんなに伝えた。
「おう、そうか、転落する瞬間は目撃してないのか」
「叫び声がしたのか……」
嶋村先輩がボソッとつぶやいた。
「どうかしたのか、嶋村?」
「もし自分で誤って転落したのなら、あんまり声を出さずに落ちるのかなと思いましたので、つい」
「どういうことですかー」
「もし、誰かと争って落とされたのなら、かなり大きな声を出すのかな、って自分は思います」
「どうだろうな」
「ふーん、私はわかりませんねー」
京子と同じく、私も色々と考えてみたが、答えが出なかった。
「ところで、ジャン・ダントリクさんは、まだ連絡がつかないのでしょうか?」
私は係長に尋ねた。そうしたら、課長が新聞を読みながらこちらを見た。
「まだみたいだ。何かわかればすぐに県警に連絡をくれるように頼んである。だが何の連絡もない」
「おう、フランスに帰っているのは間違いないそうだが、実家にも知り合いの家にもいないそうだ」
「まじでー、フランス警察、電話するの忘れてんじゃないのー」
「いや、京子、そんなわけないでしょ」
「こればっかりはフランスの警察に任せるしかないからな、俺らは待つしかない」
私たちは今後の捜査のことについて話し合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます