洗脳された妻に嫌われても俺は愛し続けた。だけど耐えられなくなった俺、妻が洗脳から解かれた時には……
夏穂志
第1話 円満な夫婦生活
「明日から
ソファに寛ぎながら俺の妻である美佳が隣で楽しそうに呟く。
「
俺が子どもの話題を出すと美佳はいつも嬉しそうに微笑む。やはり愛の結晶となる俺たちの子が欲しいのだろうか。
「家族で温泉旅行ってのもいいわね。混浴に入れば家族全員で入れるし」
「混浴じゃ無い。かぞく風呂な! それだけは勘違いしないで欲しい。温泉に行ったとしても混浴だけは入らない。いいね」
俺はその発言に賛成する事は出来なかった。
「あ、うん。そうだよね。ごめん。温泉=大浴場だったから……。も、もちろん混浴なんて入った事ないよ。あなたと出会う前も出会ってからも」
「まぁ、出会う前は俺の妻でもなんでもないから俺が何か言える立場では無いけど……」
正直出会う前も混浴に入っていたなんて事はあって欲しく無かった。しかし、夫としては強い心で受け入れなければと思ったから過去の事をグチグチ言うのは我慢した。
「大丈夫。私はウソなんて吐かないから。信じて! 私の裸を見たのはお父さんを除いてあなただけだし。私の初めてだってあなた。経験人数はあなた一人だけ」
化粧を落としても劣らないその美貌を俺の身体に密着させてくる。
「生涯あなただけが私の恋人、フィアンセ、愛する人」
近づけて来た顔に備わっている潤沢な唇をリップ音を奏でながら開き、甘い言葉を耳元で囁いてくる。
その囁き声が妙に俺の身体を震わせる。
「いや、別に疑ってないけどさ……」
「けど?」
「な、なんでもない。気にしないで」
なんでもない。ただやっぱり温泉というものには少し嫌な感情が湧いてしまう。
こんなに抱き心地の良さそうな身体に出る所は出て締まる所はしまったプロポーション。それに加えて甘い声と美しい顔つき。
俺は生涯を誓った相手を疑いたくは無いから盗聴器やGPSなんて使いたく無かった。だから必死に耐えている。
それでも無事に帰って来るまでは心配でいい睡眠なんて取れやしない。
あー、また考えただけで気分が悪くなって来た。
「ごめん。先に寝るよ。旅行の前夜祭なのにごめんね」
「うん。大丈夫。気にしないでね。私もすぐにベッドに行くから」
美佳は少しがっかりした様な表情を見せたが笑顔を見せてくれた。でも俺はそれが頑張って作った偽の笑顔だと分かっていた。
大丈夫。少しの我慢。俺も美佳が温泉から帰って来たら赤ちゃんが生まれてくれるように頑張るからさ。
俺は美佳が寝室に入って来るまでに眠りにつきたかった。しかし、それは手遅れだったようで……。
「あなた……寝てる?」
パタンと扉が閉まる音が響くと同時に体重が加わった事でベッドが少し沈む。
「あなたを置いて温泉に行ってしまう事になってごめんなさい。そろそろ私たちの子の事も考えたいし、今回で旅行は一旦最後にしようって帰る時に言うつもりなんだ。だからね、あと少し待っててね。旅行から帰って来て子どもが生まれるまで、あなただけのものになるから。友だちなんて二の次三の次」
俺はワザと寝息を立てたりして寝たフリをする。こんな甘い会話の後は必ずと言っていいほど俺にベタベタして来るから。
もし今回もして来ようなら徹夜する羽目になってしまう。
「ねぇねぇ、ホントに寝てるの? 私のカッコよくて優しくて、強くて私の事をホントに愛してくれる私の大切な
寝息を立てている俺に擦り寄るようにして横になった状態のまま近づいて来る。俺の大好きな匂いが鼻腔をくすぐる。
この匂いに思わずニヤケ顔を曝け出してしまった。じっと俺の顔を見ていた美佳には暗くてもその表情の変化は分かるようで……。
「あ、起きてる〜。もう! ホントは寝てないんじゃん」
「明日は美佳が温泉旅行に行くって言うから我慢してたけど、もうシちゃうからな。美佳が悪いんだぞ」
「気分悪いって言ってたくせに〜」
「美佳の匂いで気分も良くなった」
「ンフフ……いいよ。夜通しシても……。車出して貰う予定だし、行きで少し寝させて貰えばいいよね。失礼かな? でも他にも行く友だちも居るし、いいよね」
自分の匂いを好きだと言われたのが嬉しかったのか美佳は暗くても微笑んでいるのが分かるような声を漏らした。
美佳はもう臨戦態勢のようで身に付けるものはあと下半身に履いている下着だけだった。
大好きな人が俺を求める為の準備を終えている。あとは互いに求めるだけ。
何回もこの過程を繰り返しているのに始まる前のこの時間にいつも無意識のうちに生唾を飲んでしまう。
これから旅行なのに体力を使い果たすほど激しく求める美佳。
俺は何故か独占欲に駆られてハグの力を強めたり弱めたりして行為に耽った。その間ハグ自体は辞めなかった。
行為が終わっても身体を洗う為に入ったお風呂で欲が再熱し、延長した。
その結果、全てが終わったのは美佳が出発する二時間前だった。
「行ってらっしゃい。美佳」
「行って来ます。あなた。……あ、そうだ」
既に靴を履いた美佳は何を思い出したのか俺にゆっくり近づいて来る。そして昨晩より少々ピンク色が濃くなった唇を開き俺に耳打ちして来た。
「帰って来たらもっといっぱいしようね。私の王子様で未来のパパ」
「……チュッ」
俺は美佳の言葉に耐えられなくなり美佳の背中と後頭部に優しく手を置いて折角化粧したであろう唇に口付けをした。
「行ってらっしゃいのチュウ。折角の化粧を台無しにしちゃってごめん」
「いいよ! じゃあ私からも! チュッ。言って来ますのチュウね」
あぁ、俺。ホントにこの人の事好きなんだな……。
「大好き、美佳」
「私も大好きだよ! 大史」
寂しさを感じつつも俺は美佳を見送った。
——全てが崩壊するとも知らずに
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