第317話 シェスターとの時間



俺はシェスターの近くに陣取って、クラフトスキルで大きな浴槽を作り出した。

シェスターが足から入れる高さで、なおかつ座っても問題ないくらいのスペースを確保しようと思うと、それなりに魔力を使うのだが、シェスターの為だから四の五の言っていられないよな。



「ブルルル」



俺が何をしようとしてるのかわからないシェスターは不安そうな声を出している。

あぁ〜。

もしかして、この中に閉じ込められるとでも思ってんのかな?

そんなわけないやん。

でも、それを伝えられない…。


皮肉なもんだよな。

ある程度、心は通じあってると思うのに、言葉を交わすことが出来ない。

でも、考えようによっては、だからこそより相手を知ろうと努力を重ねるのかもしれないな…。

もっとシェスターと触れ合う時間も作らななければならない。シェスターも大事な仲間なんだからな。



「よし、出来た‼️」



俺は早速、完成したばかりのシェスター風呂にお湯を張ってみることにした。

人間と違ってそこまでお湯を熱くする必要はないと思うので、魔道具を調整して人肌くらいの温度にしたお湯を浴槽に入れた。



「ブルルル…」



んー。

初めて見るものだからなのか、シェスターは警戒しているようだ…。

まぁ、しょうがないか。



「シェスター、俺が先に入ってみるから大丈夫だと思ったら入ってきて」



俺はシェスターにそう告げてから湯浴み着に着替え、浴槽の中へと入って腰を下ろした。



「ひゅー…」



俺にはちょっと温いけど、それでもやっぱり風呂はいい。

昨日の夜はいろいろと疲れたしな…。



チャポン


チャポン



気持ち良くて知らない間に目を閉じていたら、すぐ近くで水の音がした。



「!!」



目を開けるとシェスターが浴槽に前足を入れているのが見えた。

思わずビックリしてしまったが、すぐさまシェスターの足にお湯をそっとかけて温かくしてあげる。



「ブル、ブル!!」



シェスターも安心したのか、後ろ足も浴槽に入れてきた。

俺もどんどんお湯をかけていくのだが、いかんせん4本もある足に満遍なく温めてあげるのは、俺が両手を駆使しても至難の業だ。



「ブルッ!!」


「んっ?!」



シェスターが足を折り曲げて座り出した。

俺がお湯をかけ続けてるのを申し訳なく思ったのか、自分からお湯に浸かってくれたのだろうか。だとしたら気が利き過ぎてるぞ…。



「ブルル…」



今度は、座ってくれたことで近づいた首を撫でると、シェスターは目を細めて気持ち良さそうにしている。今にも眠ってしまいそうな感じだが、それはそれでいいのかもしれない………ってそんなわけないな。このまま寝られてしまった癒すどころか風邪引いちゃうよ。


でも、もう少しだけこのままでいてあげようかな。


シェスターのための時間だしな。





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