第286話 密かな準備
「ロビンさん、今日も市場から帰ってきたらキッチン借りていいですか? 明日からまた旅が始まるので、ちょっと料理の作り置きをしておきたいんです」
翌朝、当たり前のように朝食の準備を手伝いながら、俺はロビンさんに聞いてみた。
「おう。今日はシーマ達しかいないみたいだかな。キッチンは遠慮なく使ってくれて構わないぞ。そうか、いよいよ行っちまうのか。寂しくなるな…」
おっ!
今日は俺たちの貸切かー。
ちょうどいいな。
「クラリスの件がどうなるか分かりませんが、ほとぼりが冷めた頃にまたみんなで来ますよ」
「そうだな、そうしてくれ。それまでは何とか踏ん張って南風を続けていくから」
「はい。でも、もうロビンさん1人で踏ん張らなくてもよくなるんじゃないんですか? もう少し経てばリンダさんも仕事に復帰出来るようになるだろうし…」
「まぁそうなんだけどな…。でも、正直なところそんなに長く続けるかどうかも分からない」
「えっ?! そうなんですか?」
「サザンベールという街に愛着はあっても、エピリシアという国にはそういった感情がない。あの教皇ではこれからどうなっていくのかわからんしな…。どこかでゆっくり野菜でも作って過ごそうかななんて思ったりもするくらいだ」
「…」
「でも、まぁしばらくは南風をやっていくつもりだから安心してくれ」
「はい。出来るだけ長く続けて下さい」
「おう」
宿屋をやめた後か…。
考えたことなかったなー。
そもそも俺たちは今、絶賛休業中だけどな苦笑
そういえば、しばらく戻ってないけど精龍亭は大丈夫なのかな? フィデール寄った後にでもいってみようかな…。
その後、朝食を終えた俺たちは、予定通り市場へ買い付けに行き、またすぐに南風に戻ってきた。
またキッチンに入って、イースさんに手伝ってもらいながら着々と夜の準備を進めていく。
「イースさんも段々と俺の変わった料理の作り方に慣れてきましたね」
最初は野菜のカットとか簡単なものを任せていたが、今では火を使った工程もお願いしている。
「そう見えます? 何度も見ている割に覚えきれないところもあって、自分としては不安なんですけど」
「俺の作り方だって完璧じゃないし、必ずしも正解というわけじゃないから、むしろイースさんのやりやすいように変えてもらってもいいんですよ?」
「うーん…。まだそこの段階ではないですね。シーマさんと同じように作れるようになってからじゃないですかね」
「でも、それももうすぐでしょ」
「だといいんですけど笑」
実際のところ、イースさんが自分で作れるようになってもらえればすごく助かる。
一緒に冒険してる時はもちろんだが、それ以外にも、もし王城に帰ってもフィリア王女に作ってあげられるようにからな。
まぁもっとも、フィリア王女についてはオルティア国内で、襲撃された話が拡大してしまっていればすんなり王城に帰れるのかも分からないのだが…。
そんなこんなで、イースさんの協力もあってメニューこそ代わり映えはしないが、かなりの品数をそれなりの量作ることが出来た。
安心して夜を迎えられそうだ。
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