第273話 醤油?
翌朝、食堂に降りていくとロビンさんが朝食の準備をしていた。
ん?
何か懐かしい匂いがしないか?
まさか醤油?
「おはようございます、ロビンさん」
「おはよう。随分早いね。シーマくんっていったっけ? 朝食はまだだけど?」
「いや、いつもの癖で早く起きちゃったんで気にしないで下さい。それよりもこの美味しそうな匂いは何ですか?」
「あぁ、それはきっとこれのせいだね」
そう言ってロビンさんは、俺の前に黒い液体の入った瓶をおいた。
醤油のような気がするが、確信もないし、この世界でなんて言われているかわからないので知らないフリして聞いてみることにした。
「これはいったいなんですか?」
「これはね私が自作していて、魚を塩で漬けるだけで出来るもので『魚醤』っていうらしいんだ」
「らしい?」
「あぁ。随分前に作り方を教えてもらってね。変わった匂いがするから敬遠する人が結構いる関係でもう作ってる人はほとんどいない。でもね、これを料理に使うと味に深みが出るんだよ」
それはまさに魚醤ですな。
遂に来たか。
醤油じゃないのは残念だけど、この出会いは大きい。
とてつもなく大きい。
俺だけかもしれないけど苦笑
「ロビンさん、今は訳あって休業して冒険者してますが、実は俺もオルティアで宿屋をやってるんです」
「本当かい? そんなに若いのに?」
「俺の宿屋は両親の遺産なんです。俺は両親への憧れもあって跡を継いだんです」
「そうなのか...」
「ロビンさん、お金を支払いますのでロビンさんの料理を俺に教えていただけないでしょうか」
魚醤は俺自身で作ろうと思えば作れるけど、それ以上にこれを使っているというロビンさんが料理が気になる。ココは港町サザンベール。コネクションが出来ればそれに越したことはないんだ。
「うーん。それじゃこうしよう。お金は要らないから、シーマくんの料理を教えてくれ」
「俺の料理なんて、全然大したことないですよ? 変わったものが多いし...」
「魚醤が気になったんだろ? それだけで俺は十分なんだけど、俺の感が随分と騒いでるんだよな笑 ダメか?」
俺はアイテムボックスから唐揚げを取り出してロビンさんに渡す。
「これがみんなに一番喜ばれている俺の料理です。俺はこれに魚醤を使ってみたいと思ってます」
「シーマくんはアイテムボックスを持ってるのか!!」
あ、ヤベ。
魚醤のことに気を取られて大事なことを忘れてた。
「クラリスが懐いてる人なんでバラしても問題ないかと。秘密にしておいて下さい」
「フフフ。随分と信用されてるな...。クラリスを大事にしておいてよかったよ笑 シーマくんがくれたこの料理に免じて黙っておくよ笑」
ロビンさんはそう言って唐揚げを口に運んだ。
「!!」
よし。ちょっとは驚いてくれた。
後は口に合うかどうかだ。
「これは何だ? 頼むシーマくん、教えてもらえないか?」
「これはブラックバードの肉を塩で下味を付けた後で、小麦粉をまぶしてから油で揚げたものです」
「焼くのではなく揚げるのか!! だからパサパサしないで柔らかく仕上がるのか!!」
「ロビンさん。俺はこの下味を塩ではなく魚醤にしてみたいんですがどう思いますか?」
「おい、ちょっと待て。これはこれで完成されているじゃないか!! それでもシーマくんは満足することなく、さらに進化させようとしてるのか...」
「ブラックバードに合うと思ったんですけどね」
「あぁ。俺は焼きで使うから間違いなく合うよ。合うんだけど...参ったな。どうやら俺のほうが教えてもらうことが多そうだ笑」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます