第254話 何も言うな



グレイスから少し離れた辺りで暗くなってしまったので、そこで野営することにした。


当然のように、俺はアイテムボックスから家を出して魔道具とバリアを設置していると、口を大きく開けたまま固まっているクラリスがいた。



「ア、ア、アイテムボックス!!」


「あぁ、そうだ。言い忘れてましたね。これが俺たちの野営なんですよ。意外と便利でしょ?」


「家が出てくるなんて…便利どころか、もはや野営ではありませんよね?」


「そうなんですか? もう俺たちはこの形に慣れてしまったので…。ちなみに、俺のアイテムボックスのことは本当に親しい人とオルティアの王家の一部の方しか知らないことなので、内緒にしておいて下さい」


「ふぁい。もちろんでしゅ」


「クラリス…こんなことくらいで驚いてたら身が持たなくなるわよ。それは私も少し前に経験してることだから確かね。まだまだ驚くことがたくさんあるから心しておいてね」


「…まだ何かあるんでしゅすか?」



よっぽど気になるのか、クラリスが俺に聞いてきた。



「いやぁ、フィリア王女が何のことを言ってるのか分かりませんが、他の人からしたらいろいろ驚くのかもしれませんね」


「はぁ」





クリスさんとイースさんはいつものように剣の訓練をしているが、それ以外の人達は家のリビングで寛いでいる。

俺は1人でキッチンに立って料理をしているのだが、それが不思議なのかクラリスが声をかけてきた。



「このパーティーでは、シーマさんがお1人で料理をされてるのですか?」


「手が空いてる時はイースさんが少し手伝ってくれますけど基本的には俺1人です。訳あって今は冒険者をしてますが、俺とセレナは元々親の宿屋を継いでやってたんです。料理もやってたんで問題ないですよ」


「まぁまぁ食べてみればわかるわよ。一緒に行動してるこのメンバー以外にもシーマ料理が好きな人がたくさんいるわ。私なんか王城の料理よりも好きなくらいよ」



俺が答えた後で、キッチンに入ってきたフィリア王女が付け加えた。



「フィリアがそこまで言うなんて…」


「今というかしばらくの間は簡単なものしか作れません。時間があればそれなりの品数を作れるんですけど、それはオルティアに入ってからになりますね。

ところで、フィリア王女は何しにキッチンへ?」


「えっ?! いやー、今日の夕食は何かなって…えへへっ」



全く…ただの子供じゃねえか。

まぁ、そういうところが可愛かったりもするんだけどな笑



「最近レッドボアが続いてたので、今日はブラックバードにしようかと思ってるけどダメ?」


「ううん。全然大丈夫、むしろ大歓迎よ」


「じゃあ、良い子はあっちで待っててくだちゃいねー笑」


「ひどーい。私を子供扱いしてるー笑」


「いや、子供みたいじゃないですか。ねえ、クラリス様?」


「クスクスっ さぁ、私のほうからは何とも~笑」



あっ、クラリスが笑った。



ちょっとずつでいいから、このメンバーに慣れていって欲しいな…。





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