第137話 探り



もう何度めになるのかなー、この質問。


素直に全部言っちゃえば楽になるけど、その後が壮絶に大変だろうからなー。



「今はただの冒険者ですよ」


「ふぅーん。今は...ね」


「宿屋の跡継ぎなもんですから、そのうちコスタに戻って宿屋を再開させます。それまでは冒険者として少しでも強くなり、宿屋の経営に還元できるような経験が出来ればと思ってます」


「宿屋に入っちゃったらせっかくのアイテムボックスも使い道が無さそうでもったいないわね。どうせだったら王家に雇われてみない?」


「本当に嬉しいお話ですが、私には宿屋を守るという使命がございますので、お断りさせていただきたく…」


「そんなに宿屋が大事なの?」


「両親の形見のようなものですし、何よりも両親のように楽しそうに仕事をしながら生きていきたいんです」


「楽しそうに…ね。王家に仕えればお金も入って、それなりに豪華で楽しい暮らしが出来ると思うけど?」


「お義母様、シーマさんは地位とか名誉とかに興味を示さないお方です。実際に、私の第三王女という地位さえも利用することは何一つございませんでした」



ん?

俺とソニア王妃の話に、フィリア王女も参戦してきたな…。

フォロー…なのかはよく分からんが、王家に雇われていいように使われるなんて勘弁してもらいたいからな。ちょうどいいといえばちょうどいい。



「それはそうなのかもしれないけど、もったいない人材ではあるのよね。フィリアも分かるでしょ?」


「ええ、もちろん。だからこそ私はこの方々の後ろ盾になろうと思ったのです」


「そうか、後ろ盾っていうのははそこまで考えてのことだったのね。フィリア…あなたは本当に聡明だわ。まぁいいでしょう。シーマさんのことはフィリアに任せるわ」


「ありがとうございます」



おー、さすがフィリア王女だ。

面倒なことから俺たちを守り、

上手くこの場をまとめてしまった。

後でちゃんとお礼をしよう。


俺らもお役御免だし、ぼちぼち帰れるかな?



「それでは、私達はこの辺で…」



と、俺が言い出したところでソニア王妃が言葉を被せてくる。



「そう言えば、あなた達は王都のどこに滞在するのかしら? まだ決まってないなら、決まるまでこの城にいてもいいのよ?」



いやいや、流石にそれは無理。

心が持たんよ、ソニア王妃。



「せっかく王都に来たので同業者である宿屋に泊まってみたいんです」


「あら、そうなの? フィリアも残念よね?」


「そ、それはそうですが、彼らにも予定があるかと思いますのでそれを尊重したいと思ってます。報酬の件もありますのでどのみちまた会えますし問題ございません」


「フィリアがいいなら構わないわ。それではまた後日ね」



そう言って、ソニア王妃と一緒にゼスト国王とゼット王子も去って行った。

後の処理は王国騎士団長に任せて俺たちもここを後にしよう。



「シーマさん、セレナさん、シェリルさん。ここまで護衛していただきありがとうございました。報酬についてはギルドを通して連絡するのでしばらくは王都を出ないようにお願いします」



そうだった。フィリア王女ともここでお別れなんだった。

しばらく一緒にいただけに寂しくなるなー。



「わかりました。ギルドにはなるべく毎日顔を出すようにします。セレナとシェリルも寂しがっておりますので、また近いうちにお会いしましょう」


「あら? その言い方だとシーマさんは寂しくないのかしら?」


「も、もちろん寂しいですが…」


「冗談よ。意地悪してみたかっただけよ。でもね、後ろ盾の件は本気だからね。それだけは忘れないでね」


「もちろんです。俺たちにとっても嬉しい話ですので、上手く事が進むことを願ってます」


「それならいいわ。また近いうちにお会いしましょう」


「はい。それではまた」



フィリア王女がこの場を去った後で、俺たちも王城を出た。


さて、どこに泊まろう?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る