第13話 フォルティスさん
「フォルティスさん、両親がいない間いろいろとありがとうございました」
俺は頭を下げて礼をする。
「いいってことよ。俺たちは若い頃からおやっさんに随分世話になったんだ。これくらいなんて事ねぇよ」
「そうよ」
「あぁ、その通りだ」
フォルティスさんのパーティ「アイゼンの幻陽」のメンバーでもある魔女のエテルナさんとタンクのオルテガさんも、フォルティスに同意する。
3人とも年齢は近く25歳くらいだが、フォルティスさんは細マッチョ系、オルテガさんはガッシリ系、エテルナさんは…細めだけど肉感的な感じだ。
セレナの両親であるガンマ夫妻はもちろんだが、アイゼンの幻陽の3人がいなければ、この宿屋もどうなっていたか…。
宿泊客をまとめてくれたのがフォルティスさんたちなのだ。冒険者としての俺も育ててくれた人だ。そう簡単には頭は上げられない。
「シーマ、もういい。いい加減に頭を上げろ」
「…はい」
「で? これからどうするんだ?」
フォルティスさんの言葉の後に、オルテガさんが聞いてきた。
どんな反応されるのか。
いよいよ覚悟の時だ。
「俺はこの宿屋を継ぎます。このセレナと一緒に」
「せっかく冒険者になったのに?」
今度はエテルナさんが聞いてきた。
「冒険者はしばらくはお休みします。まずはこの宿屋のことに専念することにしました。ギルドにも連絡済みです」
「それはそれで残念だな。セレナもだが、お前には期待してたからな」
「いろいろ教えていただいたのにすみません。ただ、強くなりたい気持ちは変わらないので訓練は続けていくつもりです」
フォルティスさんの問いに俺はそう本心で答えた。
「これまでもおやっさん達を手伝ってきたから掃除とかは問題ないだろうが、お前料理は出来るのか?」
「まだ本格的なものは出来ませんので、しばらくは朝食のみ提供する形にしようかと思ってます」
「………。」
少しの間沈黙が続く。
「そうか…。わかったよ。真剣に考えてるようだから、とりあえずお前らでやってみろ。オルテガ、エテルナそれでいいな?」
「おう」
「いいわ」
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「おやっさん達の形見の宿だ。潰すなよ。あと、他の泊まってる奴らには俺のほうから言っておいてやるよ。その方がいろいろと都合がいいだろ?」
参ったな。
フォルティスさんはそこまで考えてくれてるのか。
確かに変わったばかりの2代目の言葉より、この街で知らない人はいないAランク冒険者の言葉のほうが重い。
そしてこちらとしては断然やりやすくなる。
「それは非常に助かります。これからは1泊朝食付で銅貨3枚にしようかと思ってますがどうですか?」
「いいと思うわよ。」
エテルナさんが答える。
そうだった。
このパーティーのお金はエテルナさんが管理してたんだった。男2人はよく分からなそうな顔してるが問題ないだろう。
「そして、図々しいかもしれませんが、腕のたつ皆さんにお願いがあります」
「何だ?」
「狩ってきた魔物を少しでいいので、ココで引き取らせてくれませんか?」
「それも問題ない。時間があれば解体もしておいてやるよ。しばらくはこの街にいるつもりだから楽しみにしとけ!」
これも考えていたことだ。
俺自身が狩りに出れればよかったが、しばらくは無理そうなので、フォルティスさんたちなら高価なアイテムバッグを持ってるから頼めるかもって思っていたのだ。
「ありがとうございます。それでは明日の朝食から用意しますので、よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
これまでずっと黙っていたセレナと一緒にお願いして、この場を後にする。
いよいよ、明日からが本番だ。
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