ぬいぐるみ。


 学校から帰る途中。


 一緒に歩いていた幼馴染がふと足を止めた。


「どうしたの?」

「あれ」

「え? なにそれ気持ち悪い・・・・・


 幼馴染が指したのは、ゴミ捨て場にぽつんと落ちているぬいぐるみ。


「あれ?」


 気持ち悪い・・・・・と、言ってから、気付く。ぬいぐるみは、普通によくあるようなクマのぬいぐるみで、デザインは可愛らしいと言ってもいい。女の子が好みそう、なのだ。


 でも、なぜか俺はそのぬいぐるみを、気持ち悪い・・・・・と感じる。デザインの問題なんかじゃ、ない。


「え? ちょっと、やめなよ」


 幼馴染は、それを拾った。


「どうするの? それ」

「うん。うりゃ」

「はあっ!?」


 ぽんと、俺へと投げられたぬいぐるみを避ける。


「いきなりなにすんのっ!?」

「え? お前の怖がり、治してやろうと思って」


 ぬいぐるみの足を持って拾い、ぷらーんとさせながら俺へにじり寄る幼馴染。


「むしろ酷くなるけどっ!?」

「はははっ、慣れろ慣れろ」

「やめてよねっ!?」


 走って逃げると、幼馴染が笑いながらぬいぐるみを振り回しながら追いかけて来る。だからスピードを上げた。


「ちょっ、待て……おま……本気で、走るとか……」


 そして、幼馴染は逃げる俺に追い付けずにぜぇぜぇと足を止めて文句を言う。


「えと、大丈夫?」

「ハァ、ハァ……」


 ちょっと距離を取りつつ、幼馴染に近寄る。


「……ああ。ほらよ」

「またっ!?」


 ぽんと放られたぬいぐるみを、避けた。だけど、なぜかもう、それは気持ち悪くなかった。


「あ、れ? なんで?」

「追いかけっこ、したかったんだと」

「・・・それで?」

「満足したんじゃね?」


 幼馴染はぬいぐるみを拾うと、ゴミ捨て場に元あったようにそっと戻した。


「おら、帰んぞ」

「あ、うん」


 俺の幼馴染は、視える人だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る