第47話 姉様(12)
珪石をたっぷりと蓄えた殻を両手一杯に抱えて運んでいるとウグイスの耳にアケの声が飛び込んでくる。
アケの悲鳴のような声が。
ナギの耳にもそれが届く。
ナギは、抱えた殻を投げ捨て入り口に向かって走る。
姉様・・・姉様!
ナギの脳裏にアケの姿が浮かぶ。
幼い自分を抑揚のない声で、抑揚のない表情で、しかし自分を案じてくれたアケの姿が。
ナギは、入り口を出てアケの姿を探した。
「もう、来ないでって言ったでしょう!」
アケは、悲鳴のような甲高い声で叫ぶ。
頬を真っ赤に染め、両手を大きく振って自分の後ろにいる窯となったオートマタを隠そうとしている。
アケの前にいるのは黒い鎖を編んで作られた狼の彫像だ。しかし、その彫像は鎖の擦れる音を立てながら動いている。
「来ないでって、お前の悲鳴が聞こえたからだろう」
狼の彫像の口が動く。
その口から発せられる威厳と気品に溢れる声は金色の黒狼のものだ。
「大きな蜥蜴に驚いただけだから!」
2人の近くには鎖で縛られた珪石蜥蜴が地面にひっくり返っていた。巣穴にいたものよりも小さく、アズキよりも少し大きいくらいだ。そのアズキは、
「珪石蜥蜴の子どもじゃな。大人と違って大人しいから巣穴に近づかなきゃ悪さはせんぞ」
オートマタが冷静に言う。
「しかし、絶対ではないだろう」
黒狼・・・ツキは珍しく拗ねたように言う。
「アズキに
ツキを構成する鎖は、一本だけほつれたように伸び、アケのうなじに浮かぶ黄金の魔法陣に繋がっていた。
「それはまあ色々とな」
ツキの返答にアケはさらに顔を真っ赤に染めた。
「とにかく内緒なんだから見ちゃダメ!」
アケは、隠すの半分慌てるの半分に両手をブンブン振り回す。
ツキは、それを可笑しそうに笑うとゆっくりした足取りでアケに近寄り、鼻先を服に擦り付ける。
「無事で良かった」
アケの手の動きが止まる。
蛇の目を大きく開け、しゃがみ込むと両手をツキの首に回す。
「ありがとう」
アケもぎゅっとツキを抱きしめた。
その光景はナギに取って何よりも眩しいものだった。
眩しすぎて涙が流れてることすら気づかないほどに。
「だから大丈夫って言ったでしょ」
ようやくナギに追いついたウグイスが息を切らしながら言う。
「アケには何よりも誰よりも強くて守ってくれる人がいるんだから」
ツキに抱きつくアケの顔。
心から信頼し、心から安らぎ、心から愛していることを表した曇りのない太陽のような顔。
自分が一緒にいた時には決して見られなかった顔。
ナギは、その眩しすぎる光景をじっと見続けた。
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