第6話
それからしばらくの間、激しい雷雨が続きました。その間中ずっと待ち続けましたが、いっこうに止む気配はありません。
そのうち夜になり、辺りはすっかり暗くなってしまいました。仕方がないので一晩泊めてもらおうと考えて、おじいさんはおばあさんを連れて家の中に入りました。
ところが驚いたことに、そこはもぬけの殻だったのです。家具などは残っているのですが、肝心の住人の姿がどこにも見当たりません。一体どういうことだろうと不思議に思っていると、背後から声が聞こえてきました。
驚いて振り向くと、そこに立っていたのはあの犬でした。
「やあ、こんばんは」
「これはどういうことだ? この家の住人はどこへ行った?」
「何を言っているんだい? ここは僕の家だよ」
「なんだと!?」
言われてみれば確かにその通りです。
よく見れば、部屋に置かれている物は全てこの犬のために用意されたものばかりです。
おまけに食器や食べ物などが大量に用意されており、いつでも食べられるようになっていました。
さらには布団まで用意されているではありませんか。あまりにも親切な対応に驚きを隠しきれませんでしたが、それと同時にある考えが浮かびました。
「もしやお前さんが助けてくれたのか?」
「そうだよ」
「そうか……本当にありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言われて嬉しそうな顔をしています。それを見て、おじいさんはあることを尋ねました。
「ところで一つ聞きたいんだが、なぜ私たちにここまでしてくれるんだ?」
すると、その犬は迷うことなく答えました。
「それは君たちのことが好きだからさ」
その言葉に思わず胸が熱くなりました。こんなにも素敵なことを言ってもらえるとは思ってもいなかったからです。
気がつくと目から涙が溢れていました。慌てて拭おうとすると、その手を優しく掴まれて止められてしまいました。そしてそのまま抱きしめられてしまいます。
突然のことに戸惑っていたのですが、不思議と嫌な気持ちにはなりませんでした。むしろ安心感を覚えたくらいです。不思議なこともあるものだと思いながらされるがままになっていると、やがて耳元で囁かれました。
「君は僕のことが嫌いかい?」
その問いかけにどう答えるべきか悩んでしまいます。なぜなら嫌いなわけがないのですから。
それどころか好意さえ抱いているかもしれません。そこで正直に打ち明けることにしました。
「……いいや、そんなことはないさ」
「ならよかった」
そう言って微笑む姿はとても可愛らしく思えました。
そんなことを考えているうちに、段々と眠くなってきました。どうやら疲れていたみたいです。
気がつけばウトウトしていました。その様子を見て察したのか、犬はそっと声をかけてきます。
「そろそろ寝たほうがいいよ」
その言葉に従うように目を閉じると、すぐに眠りに落ちていきました。最後に聞いたのはこんな言葉でした。
「おやすみなさい」
翌朝になるとすっかり元気を取り戻しており、体の調子も良くなっていたので帰ることにしました。
念のためおじいさんが犬の頭を撫でてみますと、昨日よりも毛艶が良くなっているような気がしました。きっと気のせいでしょう。
そう思って気にせずに歩き始めると、後ろから呼び止める声がします。
振り返ると犬が大きく手を振っているのが見えました。こちらも手を振り返しながら応えます。
「また会おう」
こうして無事に帰宅することができたのですが、その後は何事もなく平穏な日々を送ることができました。
ただ一つだけ変わったことといえば、以前よりも健康的な体になったことでしょうかね?
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