第14話:僕の小説は一次通過できない!
「僕はダメなやつなんだ……」
放課後のラノベ研究会の部室で僕は頭を抱えていた。
「どうしたんですか? 先輩。非常用サッチェルでも失くしたんですか?」
非常用サッチェルとはアメリカ大統領が持ち歩いていると言われている核のボタンが入っているアタッシュケースの名前だ。
助手は今日も高度なボケを挟んでくる。
「そんなとんでもない物はそもそも僕の手元には来ないけど、小説がさ……」
「ゴミク……先輩の小説がどうしたんですか?」
いま、助手がゴミクズって言おうとしなかったか!?
「コンテストの1次を中々通過できなくて……」
そもそも「失格」した人間だ。WEB小説でも失格しているのでは……。嫌な予想しか思いつかない。
「先輩のラノベは、ちょっと前までひどかったです」
あ、流れ的に助手が元気づけてくれようとしてる……?
「話の流れはめちゃくちゃだし、起承転結はいくつか抜けてるし、そもそも完結しないし、主人公はポンコツでヒロインはいなくて……」
「も、も、もう! そのくらいで!」
僕は助手をなんとか止めた。これ以上は僕のガラスのハートがもたない。
「それでも、最近は 起承転結ができているのだからストーリーとしてはある程度ちゃんとしているはずです。面白いか面白くないかは別にして」
別にしないで! そこが一番大事だから!
「まあ、先輩のラノベは文章がおかしくて、誤字脱字も多くて見た人が一発で『だめだこりゃ』って思うかもしれません……」
「そうなの!? 僕のラノベは文章がそんなにおかしいの!? あと、そんなに誤字脱字が多いの!?」
「誤字脱字は置いておいて、文章が特徴的なのは個性です。受け入れられたら他とは違う独自性として評価されます」
「なるほど。要は売れたら勝ちってことか」
「でも、誤字脱字は……。僕はこれでも結構ちゃんと見てるんだけど……」
「人は思い込むと字の並びが多少変わっても読めるようになってます。脳のデフォルト機能の一つです」
「そ、そうなんだ」
「誤字脱字に気づきやすくなるためには、トレーニングが必要です」
「そ、そうだったのか」
たしかに、僕はそんなトレーニングはしたことがない。
「先輩がそんな特殊能力にたどり着くまでにはどれだけ時間を要するか……」
相変わらず、助手の中で僕の評価は低いなぁ……。
「そんな節穴を持つ先輩に朗報です。最近では音声で読み上げてくれるアプリがたくさんあります」
「え? そうなの? でも、そんな文明の利器を使うのはズルじゃ……」
「なに言っちゃってるんですか! 先輩!」
助手がぐいぐい前にくるんだけど……。
「例えば、先輩はデートする時、下調べしないんですか? 相手を喜ばそうと思ったら出来ることを全力でしませんか?」
「そりゃあ、調べると思うけど……むしろ、そんなチャンスに恵まれたら調べ上げるほどに調べるけど……。でも、僕は女の子とデートとかしたことないし……」
「……」
助手の無表情がいつも以上に無表情だ。半眼ジト目がいつも以上にジトってる。
「……先輩はラブコメのラノベを書かれているんですよね?」
「はい」
「ラブのコメを書かれている、と」
「はい……」
「デートの一つもしたことない人間がなんのラブを語りますか」
うひーーーーー! ド正論で僕を攻めてきた。
僕はその場で膝をついた。正確には座っていたから一度立ち上がってからその場で膝をついた。
「先輩の恥ずかしい小説をあまり世間に垂れ流すのも周囲に迷惑だと思いますから、デートしてあげます。好きな相手ではないので効果はそれほどないかもしれませんが」
助手は僕のことが好きじゃないって言ってる? それだけで十分凹んでるけど?
「そんな顔しないでください。先輩に付き合ってデートしてくれる女の子なんて、私くらいしかいません。私で我慢してください」
彼女が言う「好きな相手ではないので」は助手のことか。いや、僕は助手のことを……。
「僕は……」
言葉が出なかった。ほんとに簡単な言葉。たったの三文字。それが口から出ない。僕の口はそんなバグを抱えていたのか!?
「い、今からでいいのかな?」
僕は跪いたまま、助手に手を差し出して聞いた。
助手はくるりと後ろを向いてしまった。あれ? 早速ふられた? それとも嘘? いや、冗談かな?
「前の日から考えてドキドキするのも込みでデートです。今日は何もせずに明日行きましょう。ちょうど土曜日でお休みですし」
「う、うん……よろしく頼むよ。助手……」
「よ、よろしくされるのは私の方です。先輩は明日に向けて準備をしてください」
「うん、分かった」
この日はその後、部室内になんとも言えない浮ついた空気が充満していたのだった。
□ 今日の活動報告
「ごめんなさい。九十九くん、もう一度説明してもらえるかしら?」
西村綾香先生は僕が提出した報告書に目を通しつつ、僕から説明を受けているにもかかわらずそんなことを言った。
「えーっと……」
「どうして、小説の一次通過ができなくて妹崎さんとデートに行くことになったの!? 思ってた以上に九十九くんはリア充なの!? 爆発するの!?」
僕はもう、なにを言われてもなんでもよくなっていた。明日の休みの日、助手とデートなのだから。
「九十九くん? その顔はあんまり人前でしないほうが……」
この日、僕は地面から数ミリ浮いてたかもしれない。ドラえもんもPTA対策のために地面から常に2ミリ浮いているのだとか。ドラえもんの足に付いているのと同じ機構が実装されていただろう。
そして、西村綾香先生がその後に言った言葉も右から左に完全に通り抜けて行っていた。
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