架空のAI絵師が授賞式で僕の目の前に現れた!
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
第1話:僕の小説の神絵師は実在しない!
出版社の小説の新人賞受賞式に出席している僕は、今 人生最大のピンチを迎えていた。
場所はホテルの宴会室。広い室内にはスーツを着た大人達がたくさんいる。
高校生ながら個人出版でKindle本を出していた僕の本は、そこそこ売れて出版社さんからも注目された。
ある日、単行本化しないかとオファーをもらって快諾したら、重版重版であれよあれよと10万部のヒット。これは新人無名作家としては快挙だった。
今日はその本の授賞式なのだ。
「犬からあげ先生、きみの作品は人物の心理描写も良くできているし、ヒロインのかわいさもよく表現できている。読んでいると引き込まれるよ」
「舞台が高校のことが多くて、ターゲット層の共感も得られそうなのもよく考えられていると思うよ」
「珍しい部活なんかが出てきて、他とも差別化ができているし時々小物が出てきたりしてタイアップも取りやすい」
目の前にいる大人は編集長たったか、主幹だったか、とにかく出版社の偉い人だ。褒めてくれているのは分かるのだけど、今の僕はそれどころではない。
―――僕のKindle本がそこそこ売れた一番の理由は表紙絵がかわいかったこと。
そのイラストは、とにかくめちゃくちゃかわいかった。悔しいけど、このイラストが客寄せパンダになって人気が上がったのは否めない。
もちろん、中身には自信がある。ただ、僕はここまでの経験でどんなにいい作品も読まれないと人気が出ないことを経験してきた。人気の秘訣は僕の文章の要素もある。そう思いたい。だけど、あのイラストはその立役者になっているのは間違いなかった。
一度見たら二度見、三度見するかわいさ。この表紙絵を描いたイラストレーターの名前は「
僕は実在しないイラストレーター「愛衣」をでっち上げて、AIイラストで自分のラノベを注目させここまでのし上がったのだ。
かわいいイラストはたまたまできただけ。ガチャの様に何度も何度も描かせて、たまたま出て来た最高の絵を表紙絵にしたのだ。1万枚は描かせたと思う。
そして、まかり間違って商業出版してしまったし、そこそこのヒットを飛ばしてしまった。結果が今日の授賞式。
担当さんから頼まれて「ぜひ、愛衣先生も呼んでください」と言われ断りきれずにここまで来た。
今、僕は学校の制服で会場に入り、前方の雛壇に立っている。
『こちらが10万部の大ヒットを成し遂げた「飛び降りお姉さん」を書かれた「犬からあげ先生」です!』
「飛び降りお姉さん」は僕のデビュー作と言える本のタイトル。kindleで個人出版したものだ。この本が売れたことで僕には読者さんが付いて行った。
ちなみに、「犬からあげ」は僕のペンネーム。
司会の人がマイクで声高らかに紹介してくれ、会場の人が拍手してくれた。本来、嬉しすぎる場面のはずが、僕は気になってしょうがない。
実在しないイラストレーターが来るわけないのだ。このあと会場が変な空気になるのは確実だし、僕の自作自演がバレるかもしれない。
後でツイッターが炎上するかもしれないのも予想できる。こういうスキャンダル的なものは世の中的にはご法度。僕のこの受賞も取り消しにされてしまうかもしれない。
まさに絶対絶命!
『お次は、その本の扉絵と挿絵を担当された神絵師『愛衣』先生の登場ですーっ!』
会場は静かになった。みんな愛衣なる人物の登場を期待している。
僕は無意識に手を握りしめて下を向いていた。
次の瞬間、あり得ないことが起きた!
『ちすちすー! ボクが巷を騒がす謎の神絵師「愛衣」だよー♪』
スピーカーから聞こえてくるアニメ声。僕には全く聞き覚えが無い。無意識に顔を上げると、そこにはゴスロリのメイド服を着た銀髪ロングの女の子が右手にマイクを持って立っていた。
一言で言えば「美少女」で間違いない。顔立ちは整い過ぎているほどに整っている。
その女の子は背は低めで片目には眼帯。右腕には包帯がグルグル巻きにされていて、左手はこれまた包帯でぐるぐる巻きにされたクマのぬいぐるみの足が握られていた。
クマのぬいぐるみは雑に握られていて、上下さかさまに吊るされている様になっている。
……キャラが渋滞している。盛り過ぎだ。ぼくの小説だったら、ここで挿絵を入れるところだろう。そうじゃないと彼女がどんな姿なのか読者には伝わらない。それくらい色々な要素が詰め込まれたインパクト満点な見た目だった。
中でも彼女の銀髪はすごく自然で、ウィッグとは思えないほど。でも、顔は完全に日本人だ。自毛で染めないで銀髪の日本人なんて見たことが無い。
現実離れしてるというか、異世界感があるというか。僕の頭はとにかく混乱していた。
とにかく、僕は彼女に心当たりなんてない。
完全に初めて見た。
彼女が短いスカートを翻しながらちょっとしたダンスをしている頃には会場中が彼女に注目していた。
『おーっと、会場の話題を掻っ攫って行ったのは神絵師「愛衣」先生だぁ!』
司会者の人が調子よく愛衣(?)を紹介した。授賞式の威厳もへったくれもない。彼女の見た目と登場が全ての雰囲気をぶっ壊していた。
愛衣(?)はふいに僕の方を見たら、僕がいる会場前方のひな壇の方にスキップして駆け寄ってきた。
多分、僕の口は開いていただろうし、擬音を付けるとしたら「ポカーン」だったろう。
そんなポカーンの僕の横に彼女はふいっと来て、軽く僕と腕を組み僕の横で会場の皆さんの方を向いた。
『みんな、犬からあげ先生とボクの本を誉めてくれてアリガト。これからも良い本作るねーーー!』
愛衣(?)が会場の皆さんに右手を上げてお礼を言った。ちなみに、さっき持っていた包帯まみれのクマは床にポーンと放り出されている。
「……」
一瞬、会場が沈黙したと思ったけど、次の瞬間「わー!」っと割れんばかりに歓声が上がった。大盛り上がりだよ!
僕の組まれた右腕に彼女の凄くつつましやかな胸が当たっている。
でっち上げたAI絵師が授賞式に来るはずもないので絶体絶命。
その神絵師「愛衣」が突然目の前に現れた。
その出で立ちがイラスト界のお決まりアイテムを全部載せしたような姿ということ。
そして、その彼女が僕の腕に胸を押し当てて腕を組んでいる。
理解不能な事情が目の前に一気に現れて僕の脳みそはフリーズしていた。
その後のことは全く覚えていない。
なぜ、こんなことになってしまったのか。話は1年も前のことに遡ってしまう。
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