第11話
恋仲になりたいとは思わない。せめて他の人達と同じように仲良くしたいと思うことがこんなに苦労するとは思っていなかった。
扉が開いて会場に到着すると、マティルダに集まる視線。
いつもとは違う感覚に首を傾げていると、仲がいい令嬢達が怒りに顔を歪めてこちらに突進するように駆け寄ってくる。
「どうしたの?」と問いかける間もなく、腕を引かれて会場の端を進んでいくと信じられない光景が目に映った。
「え……?」
壇上にいるローリーの隣にはヒロインのシエナの姿。
それから兄のライボルトに、騎士団長の息子であるバルーゼと攻略対象者がずらりと並んでいる。
口をあんぐりと開けているマティルダとは真逆で、ローリーはいつもにも増して不機嫌そうにシエナを抱きしめており、彼女は悲しそうに眉を顰めている。
(この光景……どこかで見たことあるような気がするんですけど)
そう思い、考えてみるとマティルダが断罪される卒業パーティーの時の構図によく似ているような気がしていた。
(まだ学園に入って半年も経っていないんですけど!?)
会場入りしたマティルダにまだ気づいていないのかシエナを気遣うように声を掛けるローリー。
側にいる令嬢達は「今すぐ国王陛下の元に行きましょう!」「こんなの納得できません!」「わたくし達はマティルダ様の味方ですから」そんな声が耳に届く。
しかしマティルダの姿を見て騒めく会場。
こうなってしまえば見つかるのも時間の問題だろう。
マティルダは悔しそうに顔を歪めている令嬢達を集めてあることを呟いた。
「お願いね。これはあなた達のためなの……!」
令嬢達は「絶対に嫌ですわ!」「とんでもない」と言っていたが、近くにいた彼女たちの婚約者を呼んで同じことを言う。
彼らも眉を顰めていたが「時間がないわ。連れて行って」と、真剣な顔で言うと令嬢達は納得していないようだが婚約者の令息達は、いつもとは違うマティルダの切羽詰まった様子に頷いて、彼女達をマティルダから離れた場所に連れ出した。
マティルダが令嬢達が離れたのを確認した後に、ゆっくりと道が開けていく。
間に合ったと安堵している間もなく、注目の的になってしまった。
「ここまで来い、マティルダ」
「……はい」
マティルダは返事をしてからローリー達の元まで足を進めていく。
コツコツとヒールの音が静まり返った会場に響いた。
やはりマティルダを見る周囲の視線がいつもとは大きく違っていることに気づく。
しかし、なるべく表情に出すことなくマティルダは堂々と立っていた。
こちらに気づいたのか刺すような視線が壇上から降り注ぐ。
マティルダは挨拶をしつつ、ローリーの言葉を待っていた。
(大丈夫……!だって、わたくしはヒロインとも関わっていないし、虐げたりしていない!)
にこやかな表情で顔を上げるが、心臓は飛び出してしまいそうなほどドキドキと音を立てていた。
そしてローリーから掛けられた言葉は信じられないものであった。
「マティルダ・ガルボルグ……お前には失望したぞ」
「何の話でございましょうか」
「しらばっくれるな。調べはついている」
「調べとは?」
「ふん……随分と余裕だな」
「身に覚えがありませんので」
「皆の前で恥を晒したいのなら構わない。馬鹿な奴だ」
いつもより饒舌にローリーのこちらを責め立てるような声にもマティルダは取り繕いつつも、心の中では動揺しっぱなしであった。
何か悪いことをした覚えもないため、胸を張って立っていていいんだと言い聞かせるものの、明らかにマティルダを敵意を送るローリーやライボルト達。
その姿を眺めながら〝違いますように〟と、祈るような気持ちでいた。
(……こんな展開があるなんて想像もしていなかったわ)
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