第10話
この年齢になれば、大抵の令嬢達には婚約者がいる。
仲睦まじげな話を聞くたびに「どうすれば仲良くなれるのか」「よく思ってもらうためにはどう動けばいいのか」を聞いていた。
しかし、実践してみたところでローリーとの関係は良くなりもしなければ反応も変わらない。
マティルダとローリーが不仲なことを知っている令嬢達は、懸命にサポートしてくれたが今まで成果を上げることはできなかった。
折角、頑張ってくれている令嬢達には申し訳ない気分でいっぱいだった。
「どうしてローリー殿下はこんなに冷たいのかしら」
「マティルダ様はこんなに頑張っていらっしゃるのに……」
「そうよ!マティルダ様はいつも努力しているもの」
「確かにローリー殿下は誰に対してもそうだけれど、マティルダ様は……」
「皆様、ありがとう。わたくしがまだまだなのよ。でも、卒業パーティーまでにはもっと仲良くなれるように頑張らないと」
卒業パーティーで行われるマティルダの断罪。
それまで二年の猶予が与えられている。
それまでヒロインは光魔法の訓練をしたり、攻略対象者達と様々なイベントをクリアしつつ愛を育んでいく。
(環境が変われば何か変化もあるだろうし、まだ余裕はあるわよね。きっとヒロインと関わらなければ何事もなく卒業パーティーを迎えられるはず)
それまでに頑張ればいいやと考えていたマティルダに突然、悲劇が訪れる。
──学園に通い始めて半年が経った頃だった。
学園では顔を合わせても挨拶のみのローリーやライボルトは生徒会に入ったらしいが、それもマティルダに伝わることはなく、間接的に聞いただけだった。
度々、シエナと二人きりで歩いていたという報告は他の令嬢達から受けていたが、マティルダは「あらあら…」と言って余裕を崩さなかった。
だが心の中では『やはりな』とシナリオ通りに進んでいることに戦々恐々としていた。
しかし今の段階ではシエナに関わらないことが一番いいことだと思っていたからだ。
まずは身の潔白を証明する。そうすれば余計ないざこざに巻き込まれずに済むし、悪役令嬢として認定されることはないだろう、と……。
しかし王太子であるローリーの誕生日パーティーが開かれる時期だと思っていたのだが、パーティーに関してローリーからの音沙汰がない。
侍女達は「信じられない」と怒っていたが婚約者として何もしないわけにもいかず、仕方なくマティルダは準備を進めていた。
今まで何らかの連絡はあったはずだが、ここまで放置されるのは初めてのことだった。
やはりギリギリまで待ってみてもローリーからの連絡はない。
お昼の部は令嬢、令息達だけが集められていて、夜の部は国の貴族たちが集められてローリーの誕生日を祝うことになっているのだが、マティルダは嫌な予感を感じていた。
そしてローリーの誕生日パーティー当日。
なぜ迎えに来ないのだと怒るガルボルグ公爵と心配そうな公爵夫人の姿があった。
ローリーが滅多にガルボルグ邸に来ることはないが、公の場ではそれなりに婚約者らしく振る舞っていたとあって、今回の件には驚きを隠せなかった。
しかし両親に訳を話せば間違いなく面倒なことになりそうだと思ったマティルダは、ローリーは忙しいということにして会場に一人で向かうことにした。
不安を抱えたまま馬車へと向かう。
一応、ローリーへの誕生日プレゼントも用意していた。
彼が喜ぶかはわからないが、毎年マティルダは万年筆やハンカチなどをあげているものの身につけているところを見たことがない。
(効果があるとは思えないけど、なにもないよりはマシよね)
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