第3話
(しかもマティルダって、ろくな目に合わないのよね)
そこは悪役令嬢の宿命なのか。
一番マシなルートで国外追放なので正直、笑えない。
それ以外はマティルダは溶けるか砂になるか消える……つまり死ぬしかない。
そしてマティルダ的なハッピーエンドはヒロインを黒焦げにすることのみである。
しかし今はそんなことはできそうになかった。
圧倒的な存在感で他を薙ぎ倒していくマティルダという存在。
しかし学園に入学する前ならば、少しはマティルダの運命を変えることができるのではないかと思い、頑張ってみようと呑気に考えていた。
まずは両親に味方になってもらおうとしたが、マティルダの両親であるガルボルグ公爵と公爵夫人は厳しいを通り越して全く話が通じない鬼であった。
(む、娘だよ!?こんなに辛く当たる必要なくない!?めちゃくちゃ怖いんですけど……!)
良い子を装って見ても、健気に振る舞ってみても意味はない。
ガルボルグ公爵は完璧と一番以外は絶対に許さない。
マティルダの幼少期の記憶を掘り起こすと恐怖に埋め尽くされている。
容赦ない仕打ちを思い出しただけで吐き気をもよおすほどだった。
そして兄であるライボルトは荒々しい俺様でドSである。
この乙女ゲームの攻略対象者の一人で、金色の髪に緑色のメッシュが入っていて瞳も緑。
近寄りがたい雰囲気はあるものの綺麗系のイケメンである。
彼はマティルダと同じ雷魔法の使い手であるのと同時に風属性が使えることを気にしている。
何故ならば代々ガルボルグ公爵家の当主は純粋な『雷魔法』のみを使っていたからだ。
そんな事情により、父親にそっくりで純粋な雷魔法を使うマティルダに密かに劣等感を抱き、自分の地位が脅かされることに密かに怯えている。
そこをヒロインが優しく包み込むようにしてライボルトを落としていくのだが、ヒロインに出会う前まではマティルダを嫌っており、視線がナイフで刺されているように痛い。
(念願のお兄ちゃんなのに……っ!睨まれ過ぎて穴が空きそう。心が痛いわ……)
兄が自分を疎ましく思っていることに気づいていたマティルダは彼に自分から関わることもなかった。
両親からは絶対に失敗することは許されずに、もししくじれば文字通り雷が落ちてくる。
屋敷で働く人達や身近な侍女も保身のためにマティルダを庇い立てることはなかった。
愛も希望もない環境で育ったマティルダが完璧主義でキツい性格になってしまったのは仕方ない部分もあるのではないかと同情していた。
そしてマティルダの婚約者でこの国の王太子でメインヒーローであるローリー・ケイソン・ブルカリックは銀色の髪に青のメッシュが入っていて、水色の瞳は宝石のようにキラキラと輝いて見えた。
転生してから初めて生でローリーを見た瞬間、あまりの美しい顔に目を剥いた。
しかし返ってきた言葉は「用がない限り、話しかけるな」という辛辣な一言だったため印象は最悪である。
彼は皆の前では品行方正で真面目な優等生といった感じだが、裏では無表情で反応が薄く、何にも興味がない。
幼い頃からの関係性も原因らしいが、マティルダには最初から敵意が剥き出しだった。
そして婚約者にならないように交渉しようと自分なりに頑張って意思は伝えていたのだが、ガルボルグ公爵がマティルダを全力で推すため、徐々に婚約者の座へと押し上げられていく。
「ごきげんよう」
「……」
「ローリー殿下……あの」
「……」
元日本人にはこの沈黙は辛いものがある。
ツンと背けた顔とピクリとも動かない表情筋がヒロインの前だけで緩むと思うと腹立たしい。
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