第2話
中でもヒロインの取り合いは必見。
執着されるのなんて序の口で、ドロドロに愛され求められるヒロインを見て、こんな風に過激に愛されたいという熱狂的なファンから火がつき、コラボカフェ、アニメ化、舞台化とどんどん白熱していった。
攻略対象者がライバルとなり争うこともあるが、その中にはもちろんヒロインと敵対する令嬢が登場する。
それが公爵令嬢、マティルダ・ガルボルグで、雷魔法の使い手。
傲慢でプライドの高い令嬢である。
彼女は生温いことも手抜きも一切しない。容赦なくヒロインを捻り潰していく。
完璧主義で弱いものが嫌いなマティルダは周囲からも恐れられていた。
物語に電気のようにビリビリと刺激を与えてくれる存在だ。
時には頭がぶっ飛んでいるのでは?ということを平気でやってのける。
バッドエンドの中にはヒロインが彼女に黒焦げにされて焼き殺されるというものもあるというから驚きである。
そして不運にもブラック企業に人生を捧げてきた喪女で社畜の会社員は通称『ヘルラブ』の悪役令嬢マティルダに転生してしまったのだった。
残業を終えて、ご飯を食べる気力もなく暗い夜道を歩いていると、酔っ払いに追いかけられている南国にいそうな尾の長い赤い鳥が顔面に突っ込んでくる。
そして肩に掴まったまま離れなくなり考えること数秒。
何故かそのまま追いかけられる羽目になり廃ビルの屋上に辿り着く。
ジリジリとナイフを持った男達に追い詰められて、背中に当たるフェンス。
しかし大きな音と共に運悪くフェンスがそのまま外れてしまい宙に浮く浮遊感に目を見開いた。
(ああ……こんな人生、嫌)
鳥が羽ばたいて赤く輝いているのが見えた瞬間、目の前が真っ黒に染まった。
しかし、いくら待っても覚悟したような痛みもなく不思議に思っていた。
『もしかして、私……死んだ?』
その問いに答えてくれる者はいない。
暫くすると『助けてくれてサンキュー。巻き込んですまない……代わりに生き返らせてやるよ』と、なんとも軽い口調でツッコミどころ満載の言葉が頭の中に響く声。
(ここは夢……もしくは天国かしら?)
しかしもう一度やり直すことができるのならと、ここぞとばかりに自分が思っていたことを吐き出した。
『もし願いが叶うなら、生まれ変わって美人になってお金持ちになりたいし、社畜にならないでイケメンと幸せに暮らせたらいいかも~!それから魔法なんか使えちゃったりしたら最高なんですけど!!!!』
そう言った瞬間、赤い光が見えた気がしたが眠気に身を任せるまま瞼を閉じた。
そして目を覚ましたら、乙女ゲーム『ヘルラブ』の悪役令嬢である『マティルダ』になっていたというわけだ。
(この姿……ゲームの時よりも幼いわよね?まだ学園に入学する前かしら?)
ドレスのデザインも毒々しいものではなく、まだまだ可愛らしい。
金色の腰まである長い髪に、オレンジ色と金色が混ざった夕陽のような瞳は、どこなく雷や電気を彷彿とさせる。
(こんなに小さいけれど美人だし、迫力があるなぁ)
鏡でマティルダの顔を確認して吊り目を下に下に引っ張りながら思っていた。
それから乙女ゲームのマティルダの人生を思い出しながら何かを悟る。
(まず荷が重過ぎる。それに人選ミスでは……?)
正直に言うと、マティルダと前の自分の性格は真逆だった。
自信のある態度とハッキリとモノを言い、魔法力も王太子の婚約者に選ばれるほどに素晴らしいものを持っている。
しかしその完璧主義で弱い者が大嫌いなマティルダは取り巻きの令嬢達こそいるものの、どこか近寄りがたくて孤高の存在だった。
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