固有名詞

Rotten flower

第1話

窓から差し込む日差しがとても煩い。それぐらい僕は朝、そして太陽が嫌いだ。

いつからだろうか。外に出るのが嫌になったのは。視線も日差しも外気も、全てが嫌になった。

僕は外出することを決心すると水を一口喉の奥に流した。服は黒一着白一着モノクローム。特にそれ以外の服を着たいという意欲も無かった。

僕は服に体を通すと鏡を見て髪型をいじる。そのあと顔に紙を貼り付け扉を開けた。

外街中は音という液に満たされている。朝も夜も常に溺れそうになってしまう。そして僕は桃のように流されるままに生きている。

川の流れは僕を超えるほどに速かった。時間に関わる全てに置いていかれた。春、夏、秋、冬。青春、朱夏、白秋、幻冬。その全てに。

僕はコンビニに行って飲み物と食べ物を一つずつ買うと入れ物に金属を入れ商品を受け取った。

街中、行く人々たちはみな顔を隠して生活している。例え良く話す人だったとて相手の許可なしに名前を聞くことはコンプライアンス違反だ。

履歴書にも名前、性別を書くことは禁じられており、五年以下の懲役及び名前の強制消去だ。こうして人々は徐々に名前を失い代わりにあだ名を使うことにした。

僕も名前を失い、「窓辺」となった。人はみなかくされた社会で生活している生物に他ならない。


自分の名前が嫌いだったから別にいいか。

そう言って僕は「窓辺」となった。

かくされた僕の名前を覚えているやつはもういない。

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固有名詞 Rotten flower @Rotten_flower

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