②午前の授業編
「持久走とは、一見苦行でしか無いけれど、そこにしかない良さがある」
「えっほ、えっほ、やっほらへい!」
「その珍妙な掛け声はやめなさい幼馴染ちゃん!」
「女子が仲睦じく流す青春の汗、素晴らしいよね」
「プリンみたいに揺れる幼馴染ちゃんのおっぱい凝視して悟り開いたみたいな顔されると、先生困っちゃうなあ」
~ ~ ~
「い、行き遅れ三十路先生! 違うんですこれは!」
「犯罪者と浮気した元カレは皆口を揃えてそう言うんだよ」
「ゴール! あれあれ、どうしたの? まるで婚活の連敗記録更新中の女性に絡まれたみたいな顔をしてさあ!」
「幼馴染ちゃん。君の類まれなる観察能力は称賛に値するけれど今発揮するのはまずいと口を大にして言いたい」
「よーしそんなに走りたいならグラウンドもう百周行って来いこら☆」
~ ~ ~
「私、決めたよ!」
「藪から棒にどうしたの」
「僕くんとは、何があろうと結婚するって」
「素晴らしい決意だね。そこに僕の意志がかけらも介在していない点を除けば」
「だって人生の敗残者にはなりたくないよ」
「二時間目も体育やりたいみたいだなお前ら☆」
~ ~ ~
「ぐぎゅるるるるる! あぉ~~~~~ん!」
「犬の遠吠えかってくらい豪快にお腹の虫が鳴いてるね、幼馴染ちゃん」
「動くとすぐお腹が空くの! 食べても食べても全然足りない!」
「痩せの大食いってやつかな?」
「こんなことならあの時ドラゴンのお肉なんて食べなければ良かった!」
「体質じゃなくて呪いのたぐいだった」
~ ~ ~
「びびび!」
「幼馴染ちゃんが何かを受信したようだ」
「はい、はい、問題ありません」
「いつになく小声で何話してるんだろうか」
「暗殺対象に目立った動きはありません。アイコピー」
「ヒットマンもやってるんだ」
「まずテレパシー的な部分について言及なさいな!?」
~ ~ ~
「アニオリはヘタ、今素借り」
「昨今のアニメ業界に一石を投じそうな幼馴染ちゃんの不穏な発言」
「古典が存在してる意味がわかんなーい!」
「古きを知り、新しきを知るということわざがあってね」
「こんなの翻訳魔法でひゅーほい、だよ?」
「歴史を蔑ろにする身も蓋もないチートスキルの濫用はやめようか」
~ ~ ~
「中休みだー! サッカーしようよ僕くん!」
「残念ながら高校にはその制度は導入されてないんだよ、幼馴染ちゃん」
「お昼寝を取り上げて、中休みまで取り上げて、私たちに自由は許されないの!?」
「就学前の話を今更持ち出す幼馴染ちゃんは十分自由に見えるよ」
~ ~ ~
「ハンムラビ法典」
「~~!」
「奴隷階級」
「……」
「メソピタミア文明」
「~~♪」
「王朝の建国」
「……」
「チャンドラグプタ二世」
「~~~~~♪♪♪」
「ああこれ世界史が好きなんじゃなくて未知の横文字に過剰なロマンを見出してるだけだ」
~ ~ ~
「も~い~くつ寝~る~と~お~ひ~る~ご~は~ん♪」
「あと一時間乗り切れば昼休みだね」
「今日のおかずはなあに?」
「今日のお弁当は幼馴染ちゃんの大好きな甘い卵焼き入ってるよ」
「はんっ! 彼女ともあろう者が彼氏にお弁当を作らせるなんて女子力のかけらも感じないわね!」
「僕くん僕くん。私ね、昨日すっごい面白い写真撮ったから見て!」
「どれどれ?」
「変装して自分で作ったおかずに偽装するためのお惣菜をデパ地下で買い漁るツンデレちゃん!」
「申し訳ありませんでした金輪際生意気な口は叩きません!」
~ ~ ~
「can、ではなく実際は、do、を用いて会話することが基本となっており~」
「……!」
「この場合、どのように尋ねる形がスマートになるでしょうか。では、幼馴染ちゃん」
「はい!」
「大物を見つけた狩人みたいな視線。今日の幼馴染ちゃんは期待できるかも」
「Do you know the beginning of lunch break?」
「これはあCAN(かん)」
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