[5-10]一緒にいたい、一緒にいきたい
通話が終わって、ちょっと気まずい沈黙が場をひたひたと湿らせている。
僕がケイオスワールドに戻ってきた経緯と、世界を救うために神様さがしの任務を託されていることは、クォームが話してくれた。
損壊した建物の修復に絵師の人たち――幻魔法師と呼ばれる方たちのスキルが有効かもしれない、確かめるために真白さんを捜そうと方針も固まった。それを王様にどこまで伝えるか、誰とどうやって捜すのかは、今一度よく考えなくてはいけないけど。
何よりもまずはイーシィとのことだ。僕がここに戻ってきたのは、彼女を独りにしないためなのに。でも、どうしたらいいんだろう。
「しぃにゃん。外の世界は、こことは比べ物にならないくらい危険なんだよ」
「うみゅ、でも、ぼくも一緒にいきたいですにゃ」
潤んだサファイアブルーの両目に訴えかけられて心が痛む。僕も同じ気持ちなのに、どうしても、頷くことができずにいる。
結界に守られた龍都と違い、外の世界はとにかく過酷だ。気候は
僕が貰った
王様に話せば、護衛をつけてくれるとは思う。でも僕自身がこんな体たらくなのに、この安全な結界内からイーシィを連れ出すなんて……。
「とりあえず一度状況を整理しようよ。こーやんはカミサマに心当たりがあるって話だったけど、そこんとこ詳しく」
不毛な沈黙を見ていられなかったんだろう、銀君が助け船を出してくれた。それでようやく空気が動き、呼吸が戻ってくる。
「心当たりと言っていいのかわからないけど、神様に匹敵する力を持つといえば神竜族かなって。ここに来ればしぃにゃんの安否も確かめられるし、王様――浅葱様にこの件を相談できるとも思ったんだ」
一瞬、銀君は目を丸くして僕を見つめ、それからポンと手を打った。
「そっかなるほど! 果ての向こうからカミサマを呼び戻すってことじゃないんだ!? だったら僕も賛成かな。思いっきりクォームさんを誘っちゃったけど」
「うん。銀君やるじゃんって思った」
安心したように姿勢を崩し、銀君は気が抜けたように笑った。世界を壊して去るようなカミサマに戻ってきて欲しくない、それはそう。クォームを勧誘した時も言ってたね。
「浅葱しゃまがかみさまになるのですかにゃ? なのにこーにゃんまた行かないといけないのですにゃん?」
イーシィがクジラをぎゅっと抱きしめて切なげに聞いてくる。答えに
「それならさ、僕が店番を引き受けるから、こーやんとイーシィにゃんで捜すのはどう?」
「えっ」
「にゃ」
突然の思わぬ提案に驚いて、僕とイーシィの声が期せずして揃う。気を遣ってくれた……にしても脈絡のない話だけど、なぜ急に?
僕らに見つめられた銀君は、軽く咳払いをしてから真面目な表情で座り直し、言葉を加えてくれた。
「実はさっき話題に出たリレイさん。あの人なら
「え……たぶんリレイさん、僕のこと好きじゃないと思うよ。竜属性捨てて出直して来いって言われたもの」
「でも、助けてくれたでしょ?」
それは、そうだけど。何と答えたものかとイーシィを見れば、彼女は視線を落として少し考えてから、こくこくと頷いた。
「銀しゃんの
「え、ほんとに、そういうものなの……?」
勢いよく文句を言ってきたわりに
「
「待って、それはいいから! ちゃんと僕から話すから、ね?」
「……はいですにゃ」
クジラを掲げて張り切るイーシィをなだめてから、僕は話の流れを頭の中で整理する。
銀君は彼を信用しているようだけど、僕は彼が元
「僕としぃにゃんで居場所を聞き出せれば、案内はこのナビ機能でいけるから……店はしばらく閉めて、僕ら三人で行くのは?」
「それだと向かってる間にすれ違う可能性も高いし、ルスにいさんがいうことには、姉ちゃは龍都に来たことあるらしいんだ。各地を回って生き延びた人を救出して、龍都へ送り届けてるんだって」
あぁ、なるほど。最初の場所、神授の施療院で見た記憶がよみがえる。あの場所に隠れ住んでいた兄弟を助け、移住を世話したのは真白さんだった。そういえばあの時は気に留めなかったけど、不思議な雰囲気を持つ男性が同行してたんだよね。
目的があって誰かと一緒に動いているなら、確かにすれ違う可能性も高い。その拠点が龍都だとしたら、ここで待っていれば何かのタイミングで遭遇できるかもしれない。銀君のいうことは理にかなっている。
「でも、銀君は、それでいいの?」
「こーやんのお陰で
「もちろんだよ! そんな
「ですにゃん。にゃん」
銀君が両手を合わせて頭を下げてくるから焦った。彼の頼みを断る理由なんてないよ。ここに来てから今までずっと、銀君には助けられ支えられてきたのだから。
結論はリレイさんの答え次第ではあるけど、一応方針は決まったので、時刻も遅いし明日に備えて早く休むことにした。
幸い、古風な日本家屋は部屋数も多い。僕はイーシィと一緒に寝室で、銀君には居間を使ってもらう。長く留守にしていた寝室だけど、僕が消えた後もずっとイーシィが使っていたようで、
いつもならすぐに眠気が来て秒で寝落ちてしまうけど、今日はそれほど眠くない。懐かしい和式布団の感触に包まれていると、祖父母宅に住んでいた頃を思い出す。
道中は余裕がなくて、父にはしばらく短文のメッセージしか送れてなかったから、ちゃんとした近況報告メールを書こうかな。
こんもり膨らんだお布団の中から時々聞こえてくる、
第五章 終
第一部「帰還編」 終
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