第114話・寒さ対策は念入りにします


「寒い寒い寒い!? これまためがっさヤバたにえーん!!!」


 と、あまりにも冬を舐めてる格好のヘリーちゃん(半裸に近いヒラヒラした踊り子服姿です)が絶叫していますが、これは確かに寒い!


 あまりにも寒すぎて慌てて皆で七十階層に戻ります。

 そしてボス部屋からの熱で身体をしっかり温め直してから、地上に帰還しました。


 うん、外も寒い!

 やっぱり冬ですからね。

 地上でも寒さは厳しいのでした。


「てかメラミっちは、なんでそのカッコ(ソデなしヘソ出しホットパンツ姿)で寒くないん??」


「気合い」


「マ?」


 いや、耐寒仕様の見えない結界服を着てるんですよ。

 首と手首と足首から先以外全部覆ってる全身タイツタイプのやつを。


「おい、バラすなよ!!」


「ナナぽん、ウチにもそれちょーだい!!」


 はい。いいですよ。

 むむむ……、それ!


「お!? ……おおー。めちゃポカじゃん!!」


 マジヤベー、とか、鬼パないっしょ、とか言いながらヘリーちゃんがルンルン状態になりました。


 まぁ、寒いといけませんよね。

 思考まで凍りつくというか、頭回らなくなりますからね。


 そんなこんなと騒ぎながら、僕たちは冒険者ギルドに着きました。


 七十階層の攻略をミーシャ姉さんに告げ、ギルドの受付窓口前でソウ兄ちゃんとドロップ品の分配をすることに。


マイブラザーナナシよ。今日のお兄ちゃんはそれほど役に立っていない。だからこの赤い石一欠片があれば十分だ」


 と、ソウ兄ちゃんは言いますが。


「いえ。ソウ兄ちゃんの水膜があったので、僕は攻撃に大きく意識を振れました。ソウ兄ちゃんがいなければもっと攻略に時間がかかっていたと思いますし、そうなればあの空間の熱で我々も焼かれていたかもしれません」


 つまり、活躍度合いは同程度だと思います。

 なので落ちていたものは折半にしましょう。

 火の化身の魔石は、また取りに行きますので今回はソウ兄ちゃんにあげます。


「……! ぐうっ、弟の優しさが目にしみる……!!」


 あれ?

 もしかしてソウ兄ちゃん、泣いてます?


「……ああー、ナナシ君。私たちのお兄さんはその魔石をもらうよりも、また今度その魔石を取りに行くときに一緒に行ってくれるほうが喜ぶからさ」


 と、カイカちゃんが間に入ってきました。


「他の魔石は価値で等分。あの火の玉の魔石はそっち。赤い宝石はこっちは一つで、残りはそっちで良いよ。そのかわり、もう一回あの火の玉を倒しに行くときはお兄さんも呼んであげて」


 ふむ、そうですか。

 それならソウ兄ちゃん。


「……なんだ、マイブラザー」


 明日と明後日は休養日の予定にしますので、三日後にもう一度七十階層に行きましょうよ。


 で、ついでに時間ギリギリまで六十九階層でメラメライオンを狩って毛皮を集めたいです。


 あの毛皮で良い防寒着が作れるんですよ。

 人数分揃ったら皆さんに配ろうかと思ってるので、もう少し数が欲しいのです。


「ま、まさか、お兄ちゃんの分も作ってくれるというのか……!?」


 え、はい。もちろん。

 天秤会の皆さんも一緒に攻略してるわけですし。


 ちょうど次はサムサムエリアみたいですから、なるべく暖かい格好で行きましょうよ。


 そこのお元気印たちの真似しておヘソを出してたら、風邪引いちゃいますよ?


「……! ああ! またお兄ちゃんを呼んでくれ!!」


 ということで。

 この日は円満にお兄ちゃんたちと別れ、お家に帰りました。


 帰ってからフェアネス殿下に七十階層のフロアボスを倒したことを報告し、火の化身の魔石と、火の化身からドロップした赤い宝石をお見せしました。


「…………ははっ。すごいね、ナナシ」


 はて?

 なんだか少し体調が優れないご様子ですね。

 最近寒さが厳しいですけど、大丈夫ですか?

 もしやお風邪を引かれてはいませんか?


「……そうだね。ちょっと元気が出ないかも」


 それはいけません。

 今日は早めに就寝されますか?

 もしよろしければ、回復結界でベッドを囲ませていただきますが。


「……いや、そこまでしんどくはないかな。けど、言うとおり今日は早めに寝ることにするよ」


 そう言うと殿下は、ロコさんとメイドさん一人を連れて自室に戻っていきました。


 うーん、やっぱり少し心配です。


「フラーさん、もし回復結界の必要があれば、いつでも言ってくださいね?」


「……ご配意、痛みいります」


 そのあとは、赤い宝石のうちの一つを皇室に献上するということで話がまとまり、その場はお開きになりました。


 翌日三十日目翌々日三十一日目は休養日でしたので、僕は王冠の下地型に成形してもらった天上鋼をひたすら結界彫刻刀でカリカリカリカリ削り、天上鋼の王冠を作りました。


 とりあえず大まかな形状はできましたので、あとはどこまで細工を入れていくか、というところになりそうです。


 また、昨日と一昨日は集中を切らさないために一人で寝ましたが、今日三十一日目は夜更けにキャベ子さんとメラミちゃんが僕の部屋にこそっと来たので、三人で少しだけ夜更かしをしました。


 ……ちなみに、なんかどんどんキャベ子さんの肌と髪のツヤが良くなってきていますが、どうしてなんでしょうかね?


 それとなぜか、メラミちゃんも一度キャベ子さんと一緒になってパクッとしてきましたが、とても苦しそうな顔でゴックンとしたあと「まっず!!?」と言って僕の頭を引っ叩いてきました。痛い!?




 三十二日目。


 今日は、僕とメラミちゃんとキャベ子さん、そしてソウ兄ちゃんの四人でゲヘナダンジョンに殴り込みです。


 ぐっぐっと全身のストレッチをするメラミちゃん。


 ポリポリと小さめの過剰蓄魔石をかじるキャベ子さん。


 言葉少なめですがなんだか気合いの入っているソウ兄ちゃん。


 六十階層のリトライクリスタルから、レッツゴーです。


 最短ルートで六十九階層に向かって遅めの昼食を食べたあと。


「水竜挟牙!」


「ヌンッ!」


 ソウ兄ちゃんが水竜の牙を模したトラバサミ状の攻撃でメラメライオンを足止めし、キャベ子さんのガオン斬で仕留めます。


「お、次はあっちにいるぞ」


 そして僕がドロップ品を結界泡で拾いながら移動しつつ、目の良いメラミちゃんが次の獲物を探します。


 そんな流れで狩れるだけのメラメライオンを狩り、夕ご飯間近の時間になったところで七十階層のボス部屋に。


 灼熱球の火の化身に向けて。


「多重高速結界作成」


 一息に、僕たちが暑さを感じるよりも早く、千を超える枚数の超耐熱結界で火の化身を包み、


「圧縮!」


 ギュギュッと圧縮して、結界内で爆発させます。

 なんなら圧縮されすぎて極小のができてるような気もしますが、まぁ、結界内で収まる範囲なので問題はないでしょう。


 再び火の化身の魔石と、赤い宝石がいくつかゲットできてボス部屋を出ます。


「それじゃあ、約束通りこの魔石はソウ兄ちゃんの分ですね」


 ついでに赤い魔石も一つ渡しました。

 ソウ兄ちゃんは唇の端がちょっとヒクヒクしていたので、たぶん嬉しさを噛み締めていたのではないでしょうか。


 その日は赤い魔石の残りを僕とメラミちゃんとキャベ子さんで一つずつ分配し、残った一つを皇室に献上し(殿下はこの日も早めに横になっていたので、かわりにフラーさんに渡し)ました。


 翌日三十三日目翌々日三十四日目はまた休養日ですので、王冠の削り出しの続きに没頭し、三食タマゾン姉貴ネキのご飯を食べるのと三時のオヤツ以外は自室にて作業をしました。


 すると、三十四日目の夜。


「……ねぇ、ナナシ。ちょっと良いかな」


 とても思い詰めたような表情のフェアネス殿下から、殿下のお部屋にお呼ばれをしたのでした。

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