第053話・拠点改装


 森の拠点に到着した僕は、拠点を覆う巨大結界の上にカベコプターを着陸させました。


 荷物を整理してから皆で拠点内に降り立ちます。


 うん、変わりはないですね。

 ここを離れてから三か月ほどたっていますが、結界自体にも結界内部にも異常はなさそうです。


 以前にお嬢様の命を狙う刺客(お嬢様の兄たちが雇った人たちみたいでした)が来ていた時期があり、その時のこともあるのでお嬢様に対して敵意を持つ者以外の人間を透過する設定にしていたのですが。


 どうやら僕たちが不在の間にこの結界内に立ち入った人間はいないようですね。


 まぁ、この森は人跡未踏で人外魔境の地であるらしいので、普通の人間は立ち入らないのでしょう。


 というかそう考えると、襲撃命令を受けたとはいえ、単身または少数でこの森に入ってきてこの結界まで辿り着いていた刺客たちって、実は凄腕だったのでしょうか?


 たぶんそんじょそこらの暗殺者たちでは、この結界にたどり着くまでに森の生き物たちに食べられてしまうでしょうし。


 それか、唯一この結界に侵入できた刺客なんかは影に潜って結界をすり抜けてきたので、他の刺客たちも身を隠したりとかのスキルを使っていたのかもしれませんね。


 その件があってから結界の遮断項目に「魔力」や「魔力導線」や「起点」を含めるようになったわけなので、今にして思えばあれはいい経験でしたけども。


「……なぁ、ナナシ」


 と、そんなことを考えていると、ナルさんが少しだけ頬が引きつった様子で、僕の名前を呼びました。


 なんでしょう、ナルさん。


「このバカデカい結界はナナシが作ったものだと分かるし、ここを拠点にして三年間森の中で暮らしていたというのも、聞いたから知っている。……しかし、」


 ナルさんが、とある方向をすっと指差しました。


「あの、……なんだ。そこの大きな像も、……お前が作ったのか?」


 神殿の上の超巨大女神様像(全高約十五メートル)のことですか?


 はい、そうですよ。


「……そうか」


 ナルさんは、なにやら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたあと、疲れ目の時みたいに目頭を指で揉みました。


 ジェニカさんとレミカさん(そういえばこの二人って名前がちょっと似てる感じありませんか?)も二人揃って呆気に取られたような表情をしていて、


 ジェニカさんが「……おっきいー」と、レミカさんが「そうだね……」と呟きました。


 えへへ、そうでしょう。

 頑張って大きく作りましたからね!


 それもこれも女神様への信仰心の現れです。


 僕のこの女神様への溢れんばかりの想いを目一杯注ぎ込み、丸一年近くの時間を使って折れた巨木から彫り出しました。


 これより大きな女神様像は、まだ他に作ったことがないですね。


 いずれは、さらに大きなものを作るのも良いかな、とは思っていますけども。


「ちなみにナナシさん、ここの神殿の内部も皆に見せてあげたらどうかしら」


 と、お嬢様が仰ります。


「ここに戻ってきたからには、朝夕の礼拝は神殿の中で行うのでしょう? 他の皆も礼拝したい時には神殿内に立ち入るようになるでしょうし、きちんと案内してあげるといいわ」


 なるほど、その通りですね。

 というわけで、神殿内にご案内します。


 僕は、皆さんを引き連れて神殿内に入り、一番奥の神棚の下にひざまずいて祈りを捧げます。


 女神様、女神様。

 このナナシ、森に帰ってきました。


 またこの神殿から、たくさん信仰心を捧げます。

 女神様におかれましては、どうか僕たちを見守っていただければ光栄に思います。

 どうかよろしくお願いします。


「女神様像だらけですね……」


「作り込みに歴史と凄みを感じる……」


「あの神棚の下、姿絵があるんだけど、……なんか次々と絵が変わってるね」


「……コホン。ここはナナシさんにとって非常に重要な場所なので、決して、軽んじることのないようにお願いするわ」


 僕は一生懸命に祈りを捧げました。

 するとどうでしょう、いつにも増して心が晴れ晴れとする感覚があります。


 やはり、この神殿はいいですね。


 静謐で、穏やかで、全てが整っているといいますか。

 溢れる女神様への信仰心を優しく受け止めてくれるといいますか。


 とにかく、素晴らしい場所なのです。


 そうだ。

 せっかくなので、皆さんも一緒に祈りませんか?


「そうね、祈らせてもらおうかしら。ほら、皆も」


 お嬢様が僕の横にひざまずいて祈り始め、それからジェニカさんとナルさんとレミカさんも同じように祈り始めました。


 えへへ、嬉しいなぁ。

 皆で一緒にお祈りです!!




 ◇◇◇


 朝夕の礼拝に皆さんが付き合ってくれるようになり、毎日がスーパーハッピーデイのナナシです!


 ウキウキワクワクキラキラな毎日を送る僕は、いつもより素早い動きで数日かけて拠点内の整備に努めました。


 拠点を覆う巨大結界の形状や構造をいじったり、拠点広場の周囲の木をバッサバッサと切り倒して広場を広げたり、木造家屋をいったん解体して作り直したり、超巨大女神様像を綺麗に拭きあげたり。


 皆さんが住みやすいように色々と拠点を改装していきます。


 するとお嬢様が。


「この際だから、神殿の位置も変えない?」


 と、言いますと?


「今の貴方の結界術なら、あの超巨大女神様像も持ち上げられるのではなくて? そしてその下の神殿部分も土と岩を一度取り除いて更地にし、巨大結界の端に沿う位置に、ちゃんとした神殿を建てるのはどうかしら」


 なるほど。

 区画整理というやつですね!


 僕はお嬢様の指揮のもと、巨大結界の形状をさらに細かく調整し、結界の中心から見て北西側に、新しい神殿を建てました。


 ちなみに新しく作った木造三階建てのお屋敷は結界の南西側にあり、結界の東側一帯はサッカー場三つ分ぐらいの大きさの広場にしました。


 これは後々別の建物などを作る可能性まで考慮してのことですし、しばらくの間はお嬢様たちの鍛錬場になることでしょう。


 そして、肝心の神殿ですが。


「これまた大きいのを建てたね、ナナシくん……」


「神社か、これ?」


「木材が勝手に組み上がっていくというのは、言いようのない驚きがあったよ」


 神殿の主な建材はこの森の木材。

 百パーセント地産地消です。


 そして今回作った神殿は、古式ゆかしい日本の神社様式のものにしました。諏訪大社とか出雲大社とか、あのあたりの大きな神社を思い浮かべていただければおおむね合っているかと。


 まず、建物の背後に大量の土を盛って押し固めて小山を作り、そこに超巨大女神様像を乗せて御神体として祀ります。


 小山にはきちんと板状に切り分けた石材で階段を作りましたので、女神様像の足元まで参拝することができますし、女神様像のお足を舐めることも可能です。


 そして神社様式で建築した神殿の広さは今までの神殿の二倍、高さは三倍以上になります。


 床は全て板張りにしてあって、建物の一番奥に礼拝用の女神様像(全高二メートルほどの、今回新しく作成したものです)を置きました。


 神殿内の木像棚も一新して綺麗に並べ直しましたし、お嬢様たちの木像を置いておくためのスペースも用意しました。


 これでまだまだたくさん木像を彫れますね!


 あと、最近は版画にも挑戦しようかと思っていますので、そうなったらまたたくさんの作品を作りたいと思っています。


 いずれはもっともっと女神様を信仰してくれる方を増やしたいと思っていますので、布教活動に使えるよう、これからも作品作りに励まなくてはなりません。


 はあぁ、女神様……。

 これからも精一杯頑張りますね……。


 また夢でお会いできたら、お足を舐めさせてくれますか?


 できれば今度はお膝の裏がいいのですが……。




 ◇◇◇


 なんやかんやと数日がたち、ある程度この拠点での生活も落ち着いてきたころ。


「さて、今日は皆さんにお伝えしておきたいことがあります」


 皆で一つのテーブルに集まってお茶を飲んでいたところ、お嬢様が真剣な表情で切り出しました。


「私の夢の話よ。ナナシさん以外には初めて言うんだけど。私はね、……自分の手で、新しい国を興したいの」


 お嬢様の言葉に、僕以外の三人は表情を変えました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る