第006話・続々、結界術を知る日々


 最近すごいことに気づきました。


 結界壁って、色を変えられるみたいなんですよ。


 ほら、今僕が着ている服も半透明でもないし光ってもないでしょう?


 上のシャツは白、下の半ズボンは青、履いている靴は赤でちゃんと着色してあります。


 そう、形や大きさや質感まで変えられるんですから、色が変えられないわけなかったんですよね。


 通常は淡い黄色の半透明でほんのり光ってる結界壁も、ちゃんと調整すれば色味も透明度も光度も自由自在なんですよ!


 これはとても画期的なことですよ!!


 気づくのに一年近くかかってしまったことはさておき、これで何が変わるかというと。


 なんと、大きな結界壁をスクリーンみたいにして、そこに僕の脳内女神様フォルダの画像を描画することができるようになったんですよ!!


 その数実に二千枚以上(ほとんど僕の想像の産物です)。


 拠点の一番奥の神棚の下のところの結界壁にランダム描画するようにしてあるので、いつ見ても新鮮で可憐な女神様を摂取することができるというわけです。


 いやぁ、僕って天才ですね(自画自賛)。


 あ、神棚に飾ってある女神様像も最新のものになっていて、今回のは六分の一サイズで作った浴衣で夏の縁日巡りをする女神様像になっています。


 女神様が縁日の出店に行ったらまずは綿アメとか食べそうだと思うので頑張って削り出してみたんですけど、我ながらなかなかの出来だと思います。


 ふわふわ感をうまく出せずに何度も失敗してしまいましたが、何度も繰り返したことで喜ぶ女神様のお顔はとってもビューティフルに作れたので、ヨシとします。


 作った女神様像には上から薄い結界の膜を被せて保護するとともに、結界壁の色彩調整で彩色も行いますので、まんまフルスクラッチのガレキと同じですね。


 そして今回の分は、次の女神様像を作った後も殿堂入り棚に移して保管することになるでしょう。


 この殿堂入り棚には、今までに作った歴代女神様像の中でも壊すには惜しいクオリティのものがずらりと並んでいて、今までの僕の木像彫刻史にもなっています。


 ふふふ、女神様像が増えれば僕もハッピー世界もハッピー女神様もハッピーで三方三両得です。Win-Winウィンウィン-Wi-nウィーン、ガチャン(世界が繋がる音)というところです。


 もっとも、殿堂入り棚が大きくなりすぎて拠点の中で寝起きできなくなったので、拠点前の広場に木材を組んで二階建ての家屋を作りそっちで暮らすようになったわけですが。


 まぁ、ささいなことですね。


 おかげで元拠点は完全に女神様を祀る神殿のようになったので、僕はこの中に入って神棚の前で跪くだけでその日一日分の幸福を得ることができてしまいます。


 ああ、女神様。

 今日も僕を見守っていてください。


 そしていつかまたお足を舐めさせてください。


 次は親指と人差し指の間のところを念入りに舐めたいです。

 女の子のお足で一番美味しいところなので。

 それがダメなら足の裏でも構いません。

 どちらも大好物ですので。


 さてさて、朝の礼拝も済んだところで。


 今日は保存しているお肉の残量が心許なくなってきたので、ちょっと一狩り行こうと思います。


 カベコプターを使ってひゅいーんと飛んでいると、プテラノドンに似た爬虫類を発見しました。


「えいっ」


 近づき様にプテラ君を中心に球形の結界を発生させ、それを風船の空気を抜くみたいにどんどん小さくしていきます。


 昔の僕ではそのまま力業で丸めて押し潰してミンチにしてしまっていましたが、今の僕は一味違います。


 小さくしていく結界壁は、プテラ君の身体に触れるとそのままゴムのように伸びてぴったりとまとわりついていきます。


 そしてどんどん隙間がなくなると、最後は布団圧縮機で吸い尽くされた布団圧縮袋みたいになり、プテラ君はその肉体を損壊しないまま、窒息して動かなくなりました。


 こうやってあげると、可食部を不必要に損壊しないのでたくさん食べられるのですよ。


 あとは、息の根が止まったところで首の部分をぐりぐりと回転させてねじ切り、結界壁を分離させてねじ切った頭部を外してあげます。


 首を下に向けてプテラ君の血抜きをしながら、もう一匹ぐらい何か狩りたいなーと思っていると。


 お、あれは。

 大きな大きなクマです。


 プテラ君の首からドバドバと流れ出る血の匂いに誘われて、巨大なクマが姿を表しました。


 熊肉。ほほーう、これはこれは。

 久しぶりに哺乳類のお肉が食べられそうですねぇ。じゅるり。


 僕は、唸りをあげて突進してくるクマさんの足元に素早く結界壁を作成しました。


 そしてクマさんが結界壁を踏んだとたん、ビターンと前のめりにつんのめり、顔から地面に叩きつけられました。


 何が起きたのかと言いますと、強力な粘着力を持たせた結界壁がトリモチのようにクマさんの足を絡め取ったのです。


 前脚と顔が地面に張り付いて取れなくなったクマさん。ジタバタ暴れていますが、その程度の動きでは粘着結界壁からは逃げられません。


 僕はカベコプターを解除してクマさんの近くに降り立つと、手を合わせます。


「結界作成・薄刃」


 合わせた手の平の間から、薄くうすーく作成した刃状の結界壁を伸ばしていきます。


 幅五センチ、長さ五メートル、厚みが限りなくゼロの刃をクマさんの首筋に向かって「えいやっ」と振り下ろしますと。


 ……はい、この通り。


 クマさんの首を何の抵抗もなく刃が通り、それどころか粘着結界壁を貫通して地面まで深々と刺さっています。


 これまで色々な形の刃を形成してみて分かったのですが、結界壁で作った刃は厚みをゼロに近づけるほど強度が下がるかわりに切れ味が上がるのです。


 そして髪の毛の太さより薄くするとデフォルト強度の結界壁でもまるでお豆腐のように切り裂くことができるようになるのです。


 ですので、クマさんの首なんてもう抵抗を一切感じずに切ることができますし、なんなら切れ味が鋭すぎて切られたクマさんも切られたことにまだ気がつけていません。


 活け造りにされた鯛みたいですね。


 クマさんはなおも逃げ出そうと暴れていましたが、そのせいでようやく切断面がずれ始め、血がドバドバと吹き出し始めました。


 大量の出血に伴い自分が狩られたことにようやく気づいたクマさんが動かなくなったので、プテラ君と一緒に拠点に持ち帰りました。


 わあい、今晩は熊鍋だあ。


 やったね!


 僕は解体した熊肉の一番美味しいところをじっくり焼いて神棚にお供えしたあと、残りの熊肉を焼いてぱくぱく食べたのでした。






 ◇◇◇


 そして、僕が森に来て、とうとう三年がたったのでした。

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