異世界区役所『生活相談課』へようこそ!
山外大河
一章 天使と役所とバハムート
1 異世界区役所の騒々しい日常
「はぁ!? ヨシザキさんちのバハムートが逃げ出した!? あーもうだから前に放し飼いは危ないから止めてねって言ったじゃん私!」
昼前の東区区役所生活相談課にて、受話器に対して十代半ばの少女が吠える。
この日は中々に最悪な一日だった。
朝のニュース番組の占いコーナーで『素敵な出会いがある』と言われたものの、本日午前中に出会ったのは、なんだか見覚えの無い今日提出日の書類にそこそこの事件からのラブコール。
素敵とは真逆な方向の不運だ。
「あーはいはい分かった分かった! 今すぐ行くから被害最小限で食い止めて。よろしく!」
そう言って受話器を強めに置いて通話を切った彼女は勢いよく立ち上がり、ため息交じりに動き出す。
書類を片付け終えようやく一息付けると思ったのに、これからバハムートをシバきに行かなければならなくなった。
そろそろ過労死するかもしれない。
「そんな訳で皆さん、私ちょっと保安課の応援行ってきます!」
「あ、気を付けてね。ハルカちゃん一人で大丈夫?」
「バハムート位ならなんとか!」
「おい、そろそろ出前取るんだが、お前の分はどうする?」
「すぐ戻ってこれるか分からないんで今日はパスで。昼休みズラしてどこかで適当に……って誰か此処に掛けてあった私のスクーターの鍵知りません?」
「あーさっき整備長が自分の装甲車メンテ中だから借りてくって言ってた気が……」
「ふっざけんな! 私の私物何だと思ってんだ! せめて一声かけろや!」
言いながら窓に向かって走り出す。
スクーターが使えない以上、疲れるけどもこれが一番だ。
「とにかく行ってきます。アルバートさんには後で覚えてろって言っといてください」
そう言い残して背に送り出す声を聞いて、少女は三階の窓から飛び降りる。
ぱっと見ただの投身自殺。
だけど止める声は無い。
誰もが大丈夫である事を知っているから。
次の瞬間……彼女の頭上に天使の輪っか。
そしてその背に光の翼が出現した。
その姿は疲労で目に隈さえなければ天使のようである。
そして目に隈があろうがなかろうが彼女は天使だ。
残念ながら、真っ当な人間では無かった。
だからこの世界で生きている。
「あー飛ぶの死ぬ程しんどいからやなんだけどなぁ……うん、お昼は元気出る奴にしよう。ラーメンにトッピング全乗せだ」
総人口が異世界からの転移者やその子孫で構成されたこの世界で。
もう帰れないこの世界で。
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