死者再誕の儀 保健室登校と先生

パパ活?”みんな”やってるでしょ?

 何気ない日常生活編



 パパ活?みんなやってるでしょ?



 スス 「洗脳ビームに始まり、未成年労働、そして人体錬成。

    




 今更手遅れな気がしますが、

    倫理観という物はある種の縛りプレイと同じ。


     批判されようが、仁義が通らなくても関係がありません。


     遺伝子組み換え野菜や農薬を許しているのに

    何故人間の遺伝子組み換えがダメなのか。


     そんなことは偉い人が決めた事なんです。

     

     では異なる次元、異世界ではどうでしょうか。

    ルールが制定されていませんね。


     ・・・・そうゆうことです。

    この世界では”合法”ですから。きひひひひ。




 ☆☆☆


 ー 私立ポルタメント女学園 学生寮 スス・アオイの部屋 ー



 「──っ!!!!はぁっ!!はぁっ!!!クソっ!またあの夢か!!」



 汗だくになりながらススが夢から覚める。

 隣では気持ちよさそうにアオイが同じベッドでいびきを掻きながら熟睡中。


 既に振り切ったはずの過去。

 前世の記憶を引き継ぐということは犯した罪も背負うことと同義。



  「・・・・いけませんね、余裕がなくなっています」



 そう、私はスス。私の過去を知る者はこの世界にいない。

 前の世界とは別物だから。


 洗面台で顔を洗い気分をリセットする。

 私とアオイの歯ブラシが入ったコップから自分のを取り出し

 シャカシャカと歯磨きをば。



 正直今でも鏡を見るのは嫌い。

 私がやった行為に罪の意識はない。

 ”みんな”やってたことだから。


 「本当にそうかい?賢い君ならばどこかで止まるチャンスがあったはずだ」


 「っ!!!先生の言葉を語るなッ!!!!!!」



 鏡の私があざ笑うかのように先生の口調で喋ったような気がした。

 八つ当たり気味に鏡を殴りバラバラに崩れ落ちていく。

 手の傷も鏡も魔法で直せばいい。

 ・・・・・けれど心の傷は治らないし

 鏡の私を殴ったところで何かが変わる訳じゃない。



 もし地獄が存在するならば消えない罪を

 背負い続ける今この瞬間を指すんでしょうね。



 ☆☆☆



 ー ススの過去 不正 鏡花 (ふせい きょうか)の日常 ー



 私には高校時代友人がいた。いや友人だった物がいたに正す。

 その子に対し軽い嫌がらせをしていた。

 勿論本位ではない。クラスのリーダー格に脅されたからだ。

 しょうがないじゃん。ご機嫌取りをしなければ私がイジメの対象になるから。

 身の保身なんて”みんなやってることだから”

 大切な物を自分で壊すことがどんなに苦痛か。

 それをリーダー格は理解したうえで楽しんでいた。



 ある日友人が不登校になった。

 信じていた友に裏切られたことにショックを受けたんだと思う。

 もうそれっきり話してないし同窓会でも私を避けていた。

 案の定私を犯人に仕立て上げたリーダー格は新たな命令を下す。

 「イジメの首謀者、不正 キョウカを断罪せよ!!!」と。

 大義名分を得た取り巻き達に怯える日々。

 彼らもまた自分がターゲットにならないよう身の保身で動いていた。

 ”みんなやってることだから”





 高校側は真実を知らないのか、はたまた事なかれ主義なのかは定かではないが

 リーダー格は大学推薦入試に応募し、結果は合格。

 当時はSNSもスマホもない時代。

 個人の意見など学校側にも教育委員会にも届かない。

 全てうやむやにされるか、もしくは内部告発者チクったヤツが悪にされるか。

 良くも悪くも事なかれ主義。

 ”みんな”そうやってきたから



 もはやなにが正義か道徳か分からず担任に全てを話し不登校を宣言。

 流石に2人も不登校を出すのはよくないと高校側が判断。

 私は保健室登校送りにされた。

 幸いなことにあのクラスから離れたことで私へのイジメは無くなった。

 風のうわさではその後学級崩壊に近い有様だったとか。


 ☆☆☆



 保健室登校なんてものは当時では珍しいし、私自身体験したことがない事だ。

 独自の薬品の匂いと白を基調とした室内やカーテン、

 そして白衣を着た緑髪で片眼鏡な女教師。

 高笑いと姉御肌な面倒見の良さが特徴な先生だった。



 結局先生に全てを話しても何も解決しなかった。

 だが・・・・・


 

 「その程度なら”皆やっている”。清濁併せ持ったのが人間だ。

 だがその後君はどうする?

 ”みんな”とやらは後1年ちょっとでサヨナラ、

 対して君の人生は君だけのものだ。


 大衆に飲まれるもよし、反骨精神で他人を出し抜いて金持ちになるのもよし。

 ”私”なら後者を選ぶな」



 完敗だった。この人には”自分”というか”自我”がある、それも強力な。

 対して私には何もない。他人に流され周りに合わせ破滅する。


 ・・・・・なんとなくだけどリーダー格も”自我”に振り回された

 だけかもしれない。なにか理由があって他人を許せなくなったんだ。

 当然悪だということは揺らがないけれど。


 方向性は違うけれど先生もリーダー格も

 唯我独尊の姿勢で生きているように思えた。


 ・・・・・”みんな”と同じ意見に合わせる私とは真逆の人生だ。



 ☆☆☆



 高校卒業後私はリーダー格とは別の大学に進学した。

 地毛の赤も染め直して新たな生活に心躍らせていた。



 ・・・・・・けれど現実は甘くなかった。

 不景気で就職活動が実を結ばない。

 いや滑り止めには合格したけれど本命には手が届かない。

 次第に焦りが加速していく。


 そして私は禁じ手を使用。

 面接官とちょっとした”濃厚接触”をね。


 ホント男って馬鹿な生き物だ。

 合格数が増えていき選択肢が増えた。

 倫理観?相手が提案してきたんですよ?

「面接を受けた方は”みんな”やってますけれどねぇ」

 その提案に乗っただけ。

 先生には申し訳ないけれど私は”みんな”という同調圧力に負けたのだ。


 就活をクリアし援〇交際、今でいうパパ活にも手を出した。

 社会人になったとしても都会の独り暮らしを支えられないから。

 お金に困っているし”みんなやってることだから”と自分を騙す。



 ☆☆☆


 就職したことを高校の保健室先生に連絡すると自分の事のように喜んでくれた。

「君も成人もしたし、どこかいいお店にでも行こう」と誘ってきた。

 独自の高笑いも姉御肌も健在。

 この人はずうっと”自我”を持って生きている。

 私とは違う生き物だ。



 私達は終電を越え飲み明かした。

 仕方なしにホテルへ向かいチェックメイト・・・いえチェックイン。

 部屋に着き、ブランド物のバッグから封筒を取り出した時先生の態度が豹変した。



 「そのバッグ新卒には値段が相当高いはずだ。そして3桁は入ってそうな封筒。

 私を買うつもりか?」


 「そんなんじゃ・・・・ただ先生にお礼がしたくて・・・・」



 先生の気迫に押され学生時代の弱い感情が前に出てしまった。



 「・・・・・はぁ、私も清濁併せ持った人間だ。

 君達が強盗や円〇に手を出したい気持ちも分かる。

 だが!そんな端金では私のココロには届かない!」


 「な、なによッ!!!私知ってるんだ!

 教師は給特法・・・定額働かせ放題のブラック企業だってこと!

 本当はこのお金だって欲しいはず!!我慢なんてできないことも!!!」


 「ふっ、それは表の話だ。

 言ったろ?私も清濁併せ持ったって。

 副業で金持ち相手に手術して成功報酬を得ている。

 キョウカ君が働いて得た給料なら後日お返しを送るつもりだったがな」



 ぷちん。私の中で何か・・・我慢の糸?が爆ぜた気がした。



 「じゃあ私が全部悪いっていうの!!!!!!

 何の才能もなく!!!!

 平凡で!!!!!!!!

 金儲けの才能がない事も!!!全部!!!!!!」


 「ああそうだ。君は大切な教え子だったが現時点を持って他人とする。

 キョウカ君、よく思い出してみたまえ。

 学生時代のリーダー格の子は”恐怖”で他人を支配していた。

 そして君も”お金”で私を掌握しかけている。


 どこかで止まる選択肢もあったはずだっ!!なのに!!!」



 涙を流しながら怒鳴る先生。

 悔しいんだろうなと思ったがこんな顔を見るのは初めてだ。



 「分かんない!!分かんない!!!!分かんないよ!!!!

 恐怖じゃなくて善意なのに!!!

 道徳や倫理観でこれだけの金額は稼げないのに!!!

 ”みんなやってること”なのに!!!

 何で私だけこんなに不幸になるの!!!!!!!!」





 本当に分からない。いじめをしたリーダー格は推薦入学で私は一般。

 今まで心の中で押し殺してきた感情が蘇ってくる。

 結局上っ面だけよくしてる人間の勝ちじゃない!!!



 「私は”みんな”とは違う生き方をしてきたからな。

 根本から分かり合えなかったし、他人よりも稼いでいるつもりだ。


 だからこそ”個人”を見ている。


 イジメという、どうにもならないことを打ち明けてくれた君の勇気に感動した。


 学校側に言いくるめられたことも知っていたが

 保健室登校で頑張る君を応援したいと思った。


 なにより成人しても教師に会いに来る誠実さに涙した。


 社交辞令じゃなくて全て真実だ。

 君が君なりに頑張ってきた証拠。


 なのに!!!!!」



 「なのに!なによ!!!!そんなものに価値なんてない!!!

 結果が全てじゃん!!!!!

 ほら!!!受け取りなさいって!!!!」



 私は封筒を先生に押し付けるが、彼女は中身を取り出し空中へ放り投げた!



 「なんで!!!私の努力の結晶が!!お金!!!お金が!!!!」


 「・・・・・それが君の限界だよ。キョウカ君」



 桜のように散っていくお金を拾い集めている隙に先生は居なくなっていた。

 最後のセリフは本当に私に失望しているようだった。



 ☆☆☆


 くだらない人生だった。


 若い内は援〇交際で遊び、適当な男と結婚。

 結婚後も遊ぶ金欲しさに濃厚接触していたらバレて離婚。

 あげく年端も行かぬ自分の娘に諭されて”転売”に手を出した。

「仕事でおもちゃを買いに行けない”みんな”の為に」

「どうしたの?”みんな”転売なんてやってることなのに」



 ”みんな”やってることに振り回された私は最後に無理心中を図った。

 娘を生かしておいたら”みんな”が迷惑するから。


 ユガミ・・・・いえ私の長女には真実は語れない。

 それがせめてもの・・・・

 ”私個人”ができる人生最後の抵抗だ。




 あとがき


 この物語は全てフィクションです。

 あらゆる行為を助長するものではありません。


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