『みどり児の箱』の裏話

みどり児の箱 /歴史・時代・伝奇

https://kakuyomu.jp/works/16818093073457702354

>時は明治、所はとある街の大通り。

>飴売りの女は、男児に箱を授けた。

>「この箱にはね、この世で最も尊いものが入っているんだ。

> 持ち帰って、お父さんとお母さんと一緒に開けること。いいね?」


 KAC2024で上記の作品を書きました。お題は「箱」です。

 箱と聞いて思い出したのが「コトリバコ」だったので、それに基づいたホラーです。出血や欠損の描写があるので一応セルフレイティング:残酷描写有りをつけています。苦手な方はご注意ください。

 大丈夫な方はぜひ裏話まで含めて楽しんでいただけると幸いです!


 今回の裏話は「コトリバコ」と「水子供養」の二本立てでお送りします。



【コトリバコ】

 コトリバコとは、某大型掲示板発祥の怖い話、そしてそこに登場する呪物です。

 時は幕末、所は出雲国。ひどい差別と迫害を受けていた集落に、隠岐騒動を落ち延びた男がやってきた。集落の人々は厄介事を避けるために男を殺そうとするが、男は「コトリバコ」の作り方を教える代わりに助命を求む。かくして集落の人々によってコトリバコは制作され、差別をしていた者たちの元へと送られる。受け取った家では女子供が次々と血反吐を吐いて死んだ云々。

 という、やべぇ代物です。子どもと、子どもを産める年齢の女性が死ぬので「子取り箱」とも書くんだとか。


 以前書いた短編(これ↓)でも、

  ふらここ遊び /ホラー

  https://kakuyomu.jp/works/16817330668410358819

 血縁を絶やしたくない爺vs血縁を絶やそうとする怪異みたいな様相になってましたけど、本人だけが被害を受けるよりも家全体の行く末が危うくなるほうが、より重篤な気がしたり、しなかったりしています。そういう考え方もありますよね。現代でも某醸造メーカー ミ○カン のお家騒動があったりしますし。ましてやそれが近代以前ともなれば尚更ですね。


 ちなみに呪い方は、寄木で作った箱を雌の動物の血で満たす→子どもの死体の一部を入れる→厳重に封をして呪いたい相手にプレゼント、というかんじらしいです。

 作中ではちょっと順番が前後したり材料が違ったりしますが、主人公は作り方を誰かに教わったわけでもないので。執念の行動がたまたま呪物を作ってしまっただけです。そしてコトリバコだと被害を受けるのは飴を買って箱を持ち帰った男児とその母だけになりそうですが、父も呪いを受けてほしいなーという気持ちはあります。主人公の怨念つよめだしワンチャンある。



【水子供養】

 流産や死産などによりこの世に産まれることができなかった、あるいは産まれてすぐに亡くなった赤子を供養することですね。

 かつて日本では水子どころか子どもが7歳未満で亡くなった場合、基本的に葬儀は行われませんでした。水子供養の始まりは江戸時代、祐天ゆうてん上人(1637-1718)が戒名を授けて供養したことだと言われています。しかしこの風習が全国的に広まったのは意外と遅く、1970年代以降だったようです。

 作中は明治時代なので、葬儀しませんね。戒名も与えられません。ちなみに土葬です。


 ここからはただの自論ですが。葬儀というのは死者を供養するだけでなく、生者の心を切り替えさせるための儀式でもあると思うんです。外傷のない遺体って本当に眠ってるだけにしか見えないし、死んだことを何らかの形で確認して受け入れる機会がほしい。そうでないと死者の幻影に囚われて明日を生きていけない。

 ちゃんと供養する機会があったのなら、主人公もここまで狂気をこじらせなかったかもしれません。

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