ゼロ泊三日の弾丸旅行

 甲子園の時期になると「ゼロ泊三日の弾丸旅行」を思い出す。

 入学した高校の野球部がたまたま強かったから、在校中に甲子園へ行く機会があった。関東地方のすみっこから遥々、兵庫県の甲子園まで直線距離にして約五百五十キロ。

 野球部はもちろん、応援団、吹奏楽部、チア部は前もって現地入りしている。しかし応援の一般生徒はそうもいかない。


 まずは試合前日の夜、各自が自宅で夕飯と風呂を済ませて学校のバス停に集合する。乗り込むのはスクールバスだ。路線バス以上高速バス未満くらいのバスに詰め込まれ、一路関西を目指す。長距離移動するには固めの座席に座り、ほとんど倒せない背もたれに寄りかかって眠る。意外と寝れる。


 朝、目が覚めたら滋賀県、大津のサービスエリアに着いている。朝日がめちゃくちゃ目に沁みたけど、その光を反射する琵琶湖が美しかったことはよく覚えている。ここでまた各々てきとうに朝食を摂る。土産物に気を取られすぎて集合時間ギリギリセウトになったりしたのも懐かしい。関テレグッズが欲しかったんだ。

 その後は試合の時間に合わせて球場へ。自校の応援以外は時間調整のために大阪のあたりを少しだけ観光したりする。


 試合の応援が終わったら、学園長先生の知己が営んでいるらしい寂れた旅館へ行き、風呂と食事を済ませる。怪談でも始まりそうな古めかしい旅館に、テンションの高いギャル軍団(クラスメイト)。今思い返すとグッピーが死にそうな温度差だなあと思う。

 それからはまた、スクールバスに乗り込んで約五百五十キロの旅。翌朝、学校のバス停に着いたら、朝日で目をしょぼしょぼさせながらそれぞれの帰路へつく。


 こうしたゼロ泊三日の弾丸応援旅行を、甲子園へ出場するたび、甲子園で勝ち進むたびにしていた。もっとも当時は記念ボールやタオルなんか買っちゃって、なかなかの浮かれぶりだったし正直楽しかった。でもそれは高校生の体力と気力があったからこそで、大人になった今は絶対に無理だと思う。若さは凄い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る