因習の村

 色々なしがらみが残る前時代的な村だった。

 着ていい物、食べていい物、公の場での行動などは、属性によって決まる。第一に性別、それから門地、年齢。名前を呼ばれるときは屋号や先祖の名から始まり、個人として尊重されることは一度も無かった。そのくせ、噂しか趣味のない老獪達の恰好の的にされ、あることも無いことも全てが集落中に言いふらされた。

 差別も当然のようにある。先祖の身分が賤しかったとか移住して数十年しか経っていない新参者だとかで、どういう字を書くのかもわからない侮蔑的な名前で呼ばれた。学校で会う先輩はとても優しくて良い人なのに一緒に遊ぶことを禁じられ、幼い私には不理解と不快感しか残らなかった。

 せめて妖怪や怪異の伝承でもあれば、物語に出てくる面白可笑しい村になったのかもしれない。現実にはそんなものは無く、ただ化石のような人間が狭い谷地で性根を腐らせてきただけの、つまらない村だ。天狗でも亡霊でも何でもいい、この地獄を終わらせてくれ。



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