食べる二人

「善意は人を明るくするわ。餡子あんこは人を幸せにするわ」

 一緒にあんまんを食べていた友人がしみじみと語る。同意しかないが口いっぱいに頬張っているので頷くことしかできない。早々にあんまんを食べ終えた彼女は、チーズ肉まんを取り出して大きな口でかぶりつく。

「チーズがとろけるとき、人は幸せになるの」

 本当に幸せそうに食事をする人だ。いっぱい食べる君が好き、というのは正にこういう事を言うのだろう。


 また、ある日のこと。スーパーで買い物中、精肉売り場で立ち止まった彼女が言う。

「牛肉は覇道、鶏肉は帝道」

「じゃあ豚肉は?」

「王道」

 自信たっぷりに言い切られる。今日の夕飯はトンカツだ。思わず「カロリー気になるなあ……」とボヤいてしまうと、「よく噛めば大丈夫よ」と返ってくるから吹き出してしまう。


 きっと彼女の体の中には、食べたもの以上に素敵なものがたくさん詰まっているのだろう。私はそういうところに惹かれたのだ。


 ◇


「寒いから、あんまん食べていこう」


 コンビニの前を通りかかったとき、友人が思いついたように言う。

 私は人前で食事をするのが苦手だった。見た目に反してよく食べるから、その度に色んな感情の籠った「意外だね」を聞いてきた。傷つく必要もないのに心に小さな引っ掻き傷ができる。このコンプレックスは存外厄介だ。


 小さな口であんまんを頬張る友人に目をやる。この子の前なら自分を偽らなくていい。私の隣で幸せそうに食事をしている。ただそれだけでも、ありのままの自分を肯定されているような気がした。

「善意は人を明るくするわ。餡子は人を幸せにするわ」

 私の言葉に一生懸命うなずく彼女の、膨らんだ頬が可愛らしい。


 温かい間食と甘美な気持ちを胃におさめた私は立ち上がる。彼女もそれに続く。

「今度の休み、どこかに美味しいものを食べに行こうよ」

 彼女の提案を断る理由なんて一つも存在しない。行き先を話し合いながら二人で歩くこの時間を大切にしたいと思った。





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