テレビ番組でラバードールを購入していた。

ごむらば

第1話 ラバードールを購入

ラバードールを芸能人が購入するというバラエティ番組。


もちろん、番組が仕込んだ事はすぐに分かったが面白そうなので見ていた。


黒光りするマネキンのように顔のないラバードールがズラリと並んだ店内。

ラバードールは直立しているが、微妙に揺れている。

人、それも体型から女性にラバースーツを着せて立たせているのは一目瞭然だった。


カメラがラバードールに寄っていくと、鼻の辺りが膨らんだり萎んだりを繰り返している。

ラバードール役の女性も大変だなぁと思いながらも見る。

カメラがラバードールの周りを一周するが、ファスナーはなくラバースーツに完全に閉じ込められているようであった。


ラバードールの価格は1BRと表示されたものが一体3万円、2BRなら6万円といった具合。

店長が説明を始める、ラバースーツが1枚だけなら1BR.ラバースーツを3枚重ね着していると3BRといった具合だと。

つまり、ラバースーツの重ね着の枚数でラバードールの価格が変わるということ。


それを踏まえてカメラが再びラバードールへ寄っていく。

1BRなら確かに中の人の顔も何となくだが分かるし、ラバースーツの中は裸であることも分かった。

しかし、5BRになると顔の凹凸はほぼなくなり、体の細かな凹凸も分かりにくくなっている。

そして、15BRに至っては顔の凹凸は全くなく、体は女性らしい凹凸はあるものの全体的に丸みを帯びてマネキン人形のようにしか見えなくなっている。

そして、15枚ものラバースーツを重ね着させられた上、仕事ととはいえ立たされているのはかなり辛いだろう。


そんな中、芸能人は購入するラバードールをどれにするか迷いラバードールの前を行ったり来たりを繰り返している。


その間もラバースーツを着せられた女性たちはラバードールを演じるべく少し揺れながら立っていた。





ラバードールを購入する芸能人の足が止まる。

「この店で一番高いラバードールを下さい」と唐突に言い出した。

店長が少し困った顔をして言う。

「一番高いラバードールは15BRで45万円なんですが… 」

店長の歯切れの悪さに芸能人が突っ込む。

「まだ、高価なラバードールがあるんですか?」と。


店長は首を振って答える。

「いえ、ラインナップは今並んでいるラバードールで全てです、ただオプションで30BRを作る事ができるんです」


「ん?どう言うことですか?」

芸能人が店長に尋ねると説明を続ける。

「今のラインナップのラバードールをオプションでアップデートして30BRにするんです、例えば15BRのラバードールに15枚ラバースーツを重ね着させて30BRにするんです」

「なるほど、じゃあ、それでお願いします、えーと、90万円ですね、現金でいいですか?」

「お会計は30BRにしてからで構いませんよ」


そう言うと店長は15BRのラバードールのところへ行き、手を引く。

今まで大人しくマネキン人形のように振る舞っていたラバードールだが、腰を落として店長の引く手に抗う。


「さあ、来るんだ!」

店長が語気を強めるたが、15BRのラバードールは頭を振って、嫌だと意思表示をするが結局強引に店長によって引き摺り下ろされて移動を始める。


「あ!良かったら工房の方へお越し頂ければ30BRの作製風景も撮っていただいて結構ですよ」

店長の言葉にゾロゾロとスタッフたちも移動を始めると、ラバードールたちからは安堵のため息が漏れたように思えた。





工房へ移動した15BRのラバードールと店長、それに購入を決めた芸能人とスタッフたちが撮影を再開する。


15BRのラバードールは抵抗するのを諦め項垂れている。

そんな15BRのラバードールにドレッシングエイドを塗る店長。

芸能人が質問する。

「それは何を塗っているのですか?」

「これはドレッシングエイドといって、ラバースーツを着せやすくする潤滑剤です」

「なるほど!」

ラバードールの全身にドレッシングエイドを塗り終えた店長は15BRのラバードールの頭からラバーマスクを被せていく。

顔の辺りを調整し終えると、今度は15BRのラバードールの右足から順にラバースーツを着せていく。

ラバースーツを腰までたくし上げ、両腕を通すと指先まで丁寧に通して15BRのラバードールは自ら腕を伸ばしてラバースーツを着た。


ラバースーツの首元は大きく伸縮し、15BRの体を呑み込み16BRのラバードールへと変えた。

店長は仕上げとばかりに、16BRのラバードールの首元のラバースーツを引っ張り、慎重に何かを塗っていく。

芸能人がまた店長に尋ねた。

「店長、それは?」

「あっこれですか、ラバースーツ専用の接着剤です、速乾性で一度くっつくと離れません、だから失敗はできないですよ!」


それを聞いていたスタッフが思わず口にする。

「え、じゃあ、中の人はラバースーツを脱げないのでは?」

「いやだなあ、中のなんていませんよ、だってラバードールですから心配いりませんよ」

その店長の言葉でスタッフも黙ってしまった。


その後も店長はドレッシングエイドを塗ってはラバーマスクを被せ、ラバースーツを着せて首元を接着して脱げなくするを繰り返して15BRのラバードールに15枚のラバースーツをさらに重ね着させる事で30BRのラバードールを作り上げた。


「お待たせしました、高価なラバードールをお買い上げのお客様には特別にラバードールを梱包してお持ち帰り頂くのですが、如何いたしましょう?」


芸能人は不思議そうな顔をして店長に尋ねる。

「特別な梱包とはどんなものなのですか?」

「えー、15BR以上でバキュームスリーピングバッグ、30BR以上でバキュームボックスでの真空梱包となります」


芸能人は少し悩んで店長に尋ねる。

「2つともというのは可能ですか?」

「可能です!」

「じゃあ、それでお願いします!」


芸能人の言葉で動き出す店長。

30BRのラバードールは動く事なく直立している、いや動きたくても動けないのかも知れない。

そんな30BRのラバードールの手を引いてラバーのスリーピングバッグへ誘導する。

ラバースリーピングバッグの色はシルバーのラバー製。

ラバースーツと同じく首元を大きく開いて30BRのラバードールを押し込んでいく。

ピッタリとしたスリーピングバッグに収まった30BRのラバードールは体を真っ直ぐにして床に仰向けで横たわる。

そんな30BRのラバードールにスリーピングバッグの首元の後ろ側にあるフードを被せると、フードは30BRのラバードールの口元だけを残して頭の大半を包み込んでしまった。


店長はすでにスリーピングバッグにピッタリと収まっている30BRのラバードールの足元へ行くと、吸引機を接続し吸引を始める。

スリーピングバッグの中にわずかに残された空気までも吸引し、スリーピングバッグの中が真空パックされた。

こうなると30BRのラバードールは全く身動きできないだろう。


そんな30BRのラバードールにシルバーのノッペラボウにしか見えないラバーマスクを被せる店長。

「これは統一感を出すためのサービスです」

そう言って笑顔を見せる。


「あっ、そうでしたバキュームボックスもですね」

そう言うと店長は店の奥へバキュームボックスを取りに行く。

スリーピングバッグで真空パックされた30BRのラバードールにカメラが寄っていくと、真空パックされてもなんとか逃れようとラバードールが力を込めているのが分かったが動けないようであった。


そうこうしているうちに店長が、ゴールドのラバーバキュームボックスを抱えて戻って来た。

30BRのラバードールの体がすっぽりと収まる縦長のバキュームボックス。


床に横たわる30BRのラバードールに今度はゴールドのホースの付いたラバーマスクを被せると、体が真空パックされシルバーのラバーに包まれたラバードールを持ち上げてバキュームボックスの中へと入れた。

バキュームボックスの正面に30BRのラバードールが被ったラバーマスクのホースを外へ出すと開口部のファスナーを閉めた。


そして、先ほどと同じ要領でバキュームボックスの中の空気を抜いていく店長。

バキュームボックスの中でふらついていた30BRのラバードールだが、バキュームボックスの中の空気が抜けていくに連れて、上下左右前後からのラバーが張り付く形でバキュームボックスの中に彫刻のように固定された。


「さぁ、これで梱包は完了です、気をつけてお持ち帰り下さい!」

思いがけない高額の売り上げに笑顔の店長は男性スタッフ2人に抱えられていくゴールドのバキュームボックスを笑顔で見送った。

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