第2話 聖女召喚
500年前、この世界べスミスでは魔術師5人の命を犠牲に聖女が召喚された。眩い光の中から召喚された聖女の容姿は、サラサラな黒髪に潤んだ綺麗な黒目が伝承に残されていたのだが、この聖女……ヤバい? 聖女? だった。
眩い光から現れたのは艶がなくガサガサの【真っ白な髪】に死んだ魚のような【虚ろで白に近い灰色の目】肌はガサつき、見た目は……老婆ではないか!!
王宮の広間では騒然となり、誰一人として老婆聖女に近づこうとしない。だが、召喚術で強制的にこちらの世界へ来させたのはレアノス・ラークス陛下だ、その陛下が聖女に口を開いた。
「聖女様、この世界においでくださりありがとうございます。聖女様のお名前と光魔法を見せていただきたい」
周りをキョロキョロし、うずくまって小刻みに震え出す聖女に宰相が近付き、声をかけた。
「聖女様、大丈夫ですのでお顔をお上げ下さい。
小さな声でいいので、お名前を教えていただけると嬉しいです」
恐る恐る顔を上げると目前に顔面偏差値S級のイケおじがいるではないか。その顔面にパンパン! と手を叩き、手を合わせて拝ませていただいた。
「……イケおじ…お、拝ませて下さい!
あぁぁぁ、いい物を見たぁ!」
鼻先をポリポリとかき、困った様子の宰相はもう一度名前を尋ねた。
「えっと、お褒め頂きありがとうございます。
私はマルク・クロード公爵、宰相を務めさせていただいています。
貴女様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「はい、私は【
拝見していただければ分かると思いますが、78歳になります」
「ナナエ様、名を教えていただき感謝いたします。
もう一つお伺いさせて下さい。
光魔法を出せますか?」
ナナエは質問の内容に目をパチパチさせ、顔を
「光魔法とは、どのように出すのですか?
私にも出来るのですか?」
「両手を胸の前に出し『ライト』と唱えて下さい」
ライトって光という意味だけど、光魔法では基本なのかもしれない。光を思い浮かべてライトを唱える方が良さそうね。
目を閉じライトを唱えると。
「『ライト』」
眩い光が王宮の広間を輝かせた。
広間では歓喜の声で溢れている。
「聖女様、お見事です!
貴女の光魔法は魔獣の住処を破壊し、人が住む国から村まで結界を貼れる力があるのです。
それを聖女様にお願いしたいのです」
今の地球の現代では老人も若者と一緒にゲームしたり、遊びに行ったりと楽しむ時代になっている。私が若い頃は小説やアニメ、マンガで見て異世界を夢見ていた時期があったな。それが今ってどういうことよっ!
まだ若いなら分かる、私を見なさい! この老体で肌も髪もガサガサなババアが聖女! こんなクソババア聖女なんて聞いたこと無いわ!!
「さ、宰相様、私を見れば分かると思いますが【老婆】です。もっと若くて可愛い子の方が【聖女】に相応しいと思うのですが?」
先程まで歓喜の声で溢れていた広間は静まり返り、犠牲となった魔術師5人の亡骸を見ていた。
(召喚をするには生贄が必要だったの?
私がもっと若ければ良かったのに……無い物ねだりね……)
「聖女様、本日はお疲れでしょう?
お部屋へ案内します。
お手をどうぞ」
こんなシワシワの手で良いのならどこへでも連れて行って下さい。こんなことを思っている自分が情けなくて泣きたくなってくるわ。犠牲となった方々に来世では幸せになれますようにと冥福をお祈りした。
広間にいる王様と王妃様、そしてここにいる全ての方々の顔が
私の目頭から涙が溢れ頬をポロポロと伝って落ち、まるで綺麗な雫型の宝石のようだった。
「あり…がとう……ございます、手を…お借りしま……」
と、言いかけた時だった。
私の身体が光出し、広間全体だけではなくこの世界全体を覆い尽くした光。だが、あっという間に光は消え、これはどういうことなの?
「な、何? 今のは何なの?」
王様は王座から立ち上がり、外の様子を知らせるよう騎士に命じた。
「誰か外と空の様子を見て来い!」
「「「はっ!!」」」
数人の騎士が広間を出て数分後、駆け足とともに大きな音を立てて戻って来た騎士は、コチラにウインクをし陛下に外の様子を知らせると。
「陛下、外の魔物は全ていなくなり……空が、明るく澄み渡る青空です!
聖女様が先程光を放って下さった魔法こそが魔獣の住処を破壊したのではないでしょうか?」
「陛下に申し上げます、魔獣の住処付近で待機していた騎士から魔法便が届きました。
魔獣の住処が綺麗に消滅し、魔獣までもが全て消えたとの知らせです!」
再び広間では歓喜の声が広がった。
「聖女様、ありがとうございます。
貴女に褒美を……」
「あの、もう元の世界には戻れないのですか?」
「申し訳ない、召喚術は片道だけなんだ。
500年前に召喚された聖女様も帰ることが出来なかったと記されている。
聖女様の望むことなら叶える所存です、ですが元の世界へと申す望みは叶えることが出来ない」
王様をはじめ、隣にいる宰相様も沈んだ顔をして伏せている。
家族がいない私が、元の世界へ帰ったとしても、ゲームして読書をして、なんの変化もない寂しい老人ホームの暮らしへ帰るだけ。それならこの世界で骨を埋めるのも悪くない。
再び宰相様の手を取った瞬間だった、私だけを光が包み込み(暖かい、身体のあちこちに神経痛の痛みがあったのにそれが無い)そっと目を開けると、驚いている宰相様と周りの方々。
銀の置物に写っている若い女性は誰?
まさかと思い、片手で頬を触ると滑らかな触り心地、髪はツルンツルンの艶がある黒髪、瞳は潤んだ綺麗な黒目の若返った私だった。
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