第2話不登校児に会いに行く1

俺の朝は家族の朝ごはんを作る所から始まる。起床6時半、直ぐに起きて着替えと顔を洗うのを済ませ、台所に立つ。フライパンに油を引き卵を3つ割る。蓋をして弱火でじっくりと焼く。その間に冷蔵庫からレタスとハムを出しレタスは水で洗い皿に盛り付ける。その時にハムも一緒に乗せる。次に味噌汁だ。昨日の残りの味噌汁を温め直しそれをお椀に盛り付ける。ちょうどタイマーがなりご飯が炊ける。茶碗にご飯を盛ってフライパンで焼いていた目玉焼きをレタスの皿に乗せて完成!我ながら質素な朝食が作れてかなり満足している!そろそろ妹を起こす時間なので2階の妹の部屋を開ける。いつ見てもかわいい寝顔だな!うちの妹は世界一可愛いかもしれない!この顔で3食行けるなうん。そんな馬鹿げた会話を1人でしつつ俺は妹の布団を揺らす。

「起きろ我が妹よ。兄ちゃんが作った朝ごはんを食べてくれ〜。」

この天使の名前は鬼島麻由(きじままゆう)。俺と髪色が似ずに真っ黒で艶のあるツインテールが似合う小学5年生。絵を描くのが大好きなお目目パッチリの女の子。目の形が母にそっくりである。父に似ずに良かったと思う。

暫く揺すって声をかけるとパチッと目が開き飛び起き、俺に抱きついてくる。

「おっはよー!!にぃに!」

そう言って朝から元気で天使な声を聞かせてくれる。

「うん、おはよう。じゃ降りて下でご飯食べようか。」

「いーやーだー!にぃにのおんぶで下に行くのー!」

この妹は小学5年生だが未だに兄離れが出来ていない。全くこの妹...兄ちゃんが居なきゃダメなんだな!!

「しょうがないな。今日だけだぞ?」

「それ何回も聞いたー!」

そう言ってケラケラ笑いながら俺に体を預ける。

はるか昔から兄という生き物は妹を甘やかす為に生まれたと言っても過言では無いのでついつい甘やかしてしまう。妹離れが出来ていないから兄離れが出来ないのか?でもこの天使を他の男にあげるぐらいなら俺が一生養うしかねぇな!

「今日の朝食はハムエッグだぞ〜」

「〜!ハムエッグ!!やっぱ朝はハムエッグに限るよね!!」

昔からハムエッグが好きな妹の為にほぼ毎日ハムエッグになっている。別に他の料理も作れるよ?とは言ったもののこれが良い!と言われたら断る理由もなく。俺も父も嫌では無いのでハムエッグに落ち着いている。

「早く食べないと遅刻するぞ」

「わかってる〜!」

そう言って勢いよく食べ進め、あっという間に食べ終わる。食べ終わって直ぐに着替えと歯磨きを済ませ、ランドセルを背負い

「じゃ、にぃに!行ってきます!!」

「おう。行ってらっしゃい」

直ぐさま出ていってしまった。まだ7時だが友達に早く会いたいのだろう。でも今度から食べた食器も片ずけるように言わなくてはな。

「さて、俺も準備するか」

ご飯を食べ終え、食器を洗い、着替えと歯磨きを済ませる。部屋に行きバッグを持って、寝てる父に行ってきますと小さく声をかけ俺も玄関を開ける。4月中旬だが朝から少し暑さを感じる。その暑さを背中に感じながら俺は学校へと歩くのだった。

学校までの距離はそれほどない。距離は1.5kmほど。すぐ着くが早く行きたい性分なのだ。その間に人助けをする。学校に行くまでに困っている人は少ない。子供の頃は自分から暇を見つけては色々な場所に行き困っている人を探したが高校生にもなると目に見える範囲しか救わない様にしている。今日も学校に着くまで困った人も居ないようで何よりである。

無事に校門に着いていざ入ろうとしたら声を掛けられる。

「あら、おはよう自称青鬼君。昨日はごめんなさいね。私の失態で貴方の時間を無駄に浪費させてしまったわ。ほんの少しだけ罪悪感を覚えるわ」

「相変わらずの毒舌ですね先輩」

「おはようと言ったのだからおはようございますと返すのが普通でしょう?挨拶すら出来ない子になってしまったの?」

「いや、この後挨拶しようとしたんですよ!」

「そ。ごめんなさいね。貴方の話す機会を無くしてしまって。罪悪感は微塵もないわ」

さっきあった罪悪感あるって言ったのに今度のは罪悪感無しってこの人の罪悪感の基準は何なの?怖いんですけど。

「ところで今日部活があるのだけれどもちろん忘れて無いわよね?」

「もちろんです。1週間に1回しか無いので忘れる方が難しいです」

そう毎週水曜日は地域、もしくは学校の中で何でも良いので奉仕活動をしなくてはならない。活動を怠ると直ぐに廃部にされてしまう。

「今日は少し変わった仕事だからよろしく頼むわね。ではまた放課後に同じ時間で」

玄関で別れの言葉を済ませ、先輩は階段を登って行った。

俺も玄関に向かい上履きに履き替え教室へと向かう。

教室はいつも賑やかだ。皆がグループを作りジャンル毎に話をしている。ある所はアイドルの話。ある所はアニメの話など、見事に2次元と3次元が別れている気がする。ちなみに俺は2次元派だ。

そんな俺が教室に1歩入るとお決まりなのは教室が1度静まり返る事。小中と慣れているが俺の事なんて気にせずに会話を続けて欲しい。そんな中でも挨拶を交わしてくれる奴も居る。

「オハヨっす!相変わらずの猫背だな〜!も少し背筋ピーンとさせた方がいいぞー!!」

そう言って背中をバシバシ叩いてくるこいつは赤狛優心(あかごまゆうしん)。名前に赤が入っているからなのか知らないが高校生になって急に髪を黒から赤に染め、ヘアスタイルも一変してスパイクショートに。(気になった人は調べるといい。結構イカつい)小学生からの幼なじみで腐れ縁なので昔の髪色を懐かしむがこいつが自分で決めた事に口は出さないのが友達だと思う。こいつが小学生の時に名前に赤が入っている事で謎にシンパシーを受け、率先して赤鬼役をやりたがっていた。そして背が高くスラッとしてる事から俺は青鬼役に指名された。最初は遠慮の知らない奴かと思ったがこいつのおかげで巡り会えたと言ってもいいのでものすごく感謝している。言葉にするのは恥ずかしいが。

「痛い痛い!お前力加減出来ないんだから叩くな!それに、猫背は少しでも皆や子供と接する時に怖くないようにしてる俺なりの努力なの!」

「ぶはは!お前の努力はみみっちぃな!そんなんでお前の怖さは変わんねぇよ」

ゲラゲラ笑いながら更に背中を叩いてくる。こんな力加減を知らない馬鹿だがなんと手芸部に入っている。手先が器用なのは少しムカつく。

「遅れたけどおはよう赤」

「おう!青」

泣いた赤鬼の役をやる中で段々と仲良くなって、今じゃその愛称で読んでいる。俺の唯一の友達で理解者だ。

「それより聞いてくれ!今日妹がな!」

「あーはいはい。妹ラブなのはいいけど俺はその手の話は聞きたかないんだよ!お前妹のことになると無駄にハキハキするし早口出し圧すごいし!それに今俺は、1人の女性に恋してるのだから!!」

そう言って話を遮られてしまった。

「でもお前の恋は恐らく実らないだろ?だって相手は」

言いかけて直ぐに始業のチャイムが鳴り1人の小さい女性が入って来た。

「はーいみんなー!チャイム鳴ったし席ついてねー!」

その小さい身体とは裏腹に胸と声がデカく挨拶や礼儀がしっかりできるウチのクラス担任、花山駒智(はなやまこまち)。茶髪ボブが似合うキュートな女性。生徒からの信頼厚く、よく人生相談などをされているらしい。親しみを込めて駒ちゃん先生と皆呼んでいる。この人は手芸部顧問であり俺の入っている部活。奉仕部の顧問も務める完璧超人である。たまに抜けている所があるがそれも愛嬌という事で生徒には大変人気である。そしてさっきの赤が好きな人でもある。

「駒ちゃん先生おはザース!今日も可愛いね!!俺と付き合おうぜ!一生養うから!!」

「おはよう赤狛君。気持ちはありがたいけど教師と生徒での恋なんて実りません。諦めて別の出会いを探しましょうね?」

「いいえ実ります!俺のこの気持ちは誰にも負けません!!」

これがこの教室で起きる朝の日常。赤が駒ちゃん先生に告白して振られる。毎日しているが飽きないのだろうか?でもこれで毎日笑いが起きるのだからあいつは人を笑わせる才能があるのかもしれない。

「冗談はこの辺にして、ホームルームを始めます」

その掛け声で笑いがあった教室が静まり返る。皆根は真面目なので切り替えが早い。

「出席確認をしますね。...吉澤さん以外は皆居ますね。偉いです。特に朝は報告する事は無いので朝のホームルームはここまで。それと鬼島君。この後先生の所に来てください。話があります。以上で終わりです」

最後の俺の呼び出しでクラスがザワつく。俺は周りから問題児扱いされているのか、呼び出しを受ける度に教室がザワザワするので呼ぶ時は内密に呼んで欲しい。

「おい青!ずりぃぞお前だけ!!俺の駒ちゃん先生は親友のお前でも渡さなぇからね!」

「別に取ったりしないから安心しろ。それにお前なら俺の呼ばれた理由も検討着いてるだろ?」

そう。俺が駒ちゃん先生に呼ばれる事は1つだけ。何かしらの案件なのだ。

生徒相談室。この教室は実質駒ちゃん先生の懺悔室の様な所になっている。懺悔室と言っても無駄話をしに来る人や真剣な相談も請け負っている部屋なのだ。何故こんな説明をしているかと言うと俺は今、その生徒相談室の前に立っているからだ。さっき駒ちゃん先生に呼ばれたのでいつものようにノックをし失礼しますと言うと、中からどうぞと言われいつものようにドアを開け背が高いのでくぐる様にして入る。

「また呼んでしまってごめんね〜。でも君の頑張りを評価してるからこその依頼と言うか何と言うか...お金払ってでも君に頼みたいのだよ!!泣」

「いつも言うように頼まれるのは問題ないのですがお金を払おうとしないでください。善意で俺は活動してるんです。お金を払う様なら話を聞きませんからね」

「ごめんよごめんよ!いつもの冗談さ!もっとニコニコしようよー!」

そう言って頬っぺたを両手で掴み、みょんみょんされる...辞めて欲しいけど先生なので強く言えない。

「ほれで、はなひってなんれふか」

「あ、ごめんなさい脱線してしまって。話と言うのはウチのクラスの吉澤さんの事なの」

吉澤と言われ直ぐに気づく。不登校児の吉澤澄子さんだ。そういえば入学してからずっと見ていない。

「もう真城さんから聞いてると思うけど、今学校に来ていない彼女を今日の放課後、私と貴方と真城さんの3人で彼女の家に訪問して話を聞いて学校に来るように促して欲しいの!!」

「...ちょっと待ってください。真城先輩からは何も聞かされてません。もしかしてですが今日の奉仕活動ってこの件と深く関わってますか?」

そう質問したが先生が俯き、

「あの子なんで伝えて無いの!?何なの!先生に意地悪したいの!?!?もうあの子嫌〜!!!」

「先生!?大丈夫ですか!?!?」

「あ!...ご、ごめんなさい思わず本音が...この事は内緒にして欲しいのだけれど...」

「大丈夫です。人の失態を言えるような仲は居ませんので。」

「なら良かったわ。それと、この話の後で真城さんを昼休みに私が呼んでいる事を伝えてくれないかしら?」

「わ、わかりました...」

目が笑っていない!さっきまでニコニコしなよと言っていた人とは思えないくらい顔に圧を感じる。真城先輩は駒ちゃん先生に何をしたんだ!?

「それで君の質問だけど正解よ。放課後はよろしくね。これで話は終わりよ。わざわざ呼んでごめんなさいね」

そうして話が終わり部屋を後にする。会ったことも無い女子の家に行って怖がれないか不安になりながら放課後を待つのだった。

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