異世界転生したので、モブとして生涯を終えさせて頂きたい!

かえる

序章 波乱万丈な人生

 私は空を飛んでいた。

飛んでいる[ような]とかいう例え話ではなく、事実飛んでいた。


目の前に広がるのは果てしなく続く青。

生きているかの様に形を変えていく白い模様。

地上に立っている時に感じていた身体の重み。その全てを手放し、開放感さえ感じる自由な空に、私は存在していた。


 私は間違いなく空を飛んでいた。


 ふと辺りを見回すと、懐かしい記憶たちが私と並走するかの様に流れている。


 初めての誕生日パーティー。願いを込めて吹き消した蠟燭は、当たり前のように私の前髪に燃え移り、瞬く間に私の髪を焼いた。

 楽しい家族旅行。旅先のパーキングエリアに忘れられた。

優しいドライバーに便乗させてもらい一安心したのも束の間、そのまま拉致され海外へ密輸されかけた。

 キラキラした学生時代。私が作った友人たちは、もれなく全て友人たちの痴情のもつれで離散し、「あの子と友達になると男だけでなく女友達まで失う」と県をまたいで学校中を賑わせたのも懐かしい。

 成人式では他人に荷物を取り違えられ、そのまま警察のお世話に。

荷物に入っていた違法薬物のおかげで、無事薬物所持の疑いで検挙された。あの時は人生終わったと思ったな・・・証拠不十分で釈放された時は、この不運な人生の中の微々たる幸運を全て使い切ってしまったと本気で思った。

 運命の人と疑わなかった夫は血を分けた筈の妹と駆け落ちし、私の人生に[希望]の二文字は存在しないのだと身をもって知らしめた。


 決していい人生を歩んでいるとは言えない。言えないが、それでも私は生きている。私を取り囲む不運に抗い、それでも笑って人生を全うしようと決めていた。


 グンッ!!


 自由だった身体に負荷を感じる。とても長い夢から覚めたように現実に戻されたと同時に理解する。

 私は空を飛んでいるのではなく、落ちているのだと。

 ふと見上げると見知った顔が二つ。運命を感じていたはずの夫と、その運命を奪った妹の顔だった。

 二人寄り添い、高い崖から見下げるように無表情で私を見ていた。その瞬間、すべてを理解した。


 あぁ、あそこから落ちているのだ、と。


 せめてもの抵抗として、籍を抜かずにいたのが気に障ったのだろうか・・・大人しく奪われていれば良かったのだろうか・・・


 今まで見ていた夢が走馬灯だったと気づき


あぁ、私の人生はココで終わるのだな・・・やっと・・・終わるのだな・・・


そう思った瞬間、涙が頬を伝うのを感じた。

 良い人生とは言えなかった・・・決して幸せな人生では無かったと思う・・・

でも、だからって涙で終わるのは悲しすぎる。私は最後は笑顔でと決めているのだ。


 あの崖上で無表情でこちらを見ているあの二人に向けて、私の人生に向けて、最後位精いっぱいの抵抗を見せてやるのだ。そして、もし、神様がいるのなら・・・


 私の不運がすべて神様のちょっとしたミスなら・・・次の人生は何もない、平凡な、穏やかな水平線の様な、そんな人生を歩ませてください。


 そう強く願い、そして精いっぱいの幸せな笑顔をあの二人に、そして今までの人生に向けてやった。

 二人は私を見てビクッと後ずさり、私はそんな二人を見て一層笑みを強め、意識を手放していった・・・

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