ローザリンデはワルツを踊る夢を見る
この世界は多分『シンデレラ』だった。でも、シンデレラは無事『エラ』として王子様のお嫁さんになった。おとぎ話だったらめでたしめでたしで終わるところだけど、絵本の中の世界ではないのでこれからも彼女の物語は続く。
そして私も。シンデレラの意地悪な継姉ではなく、ローザリンデ・アルペンハイムとして、これからの長い長い旅路を彼と共に歩いていくのだ。きっと幸せな事だけじゃなくて、嫌な出来事、理不尽な出来事にも遭遇するだろう。それこそおとぎ話のように。でも、きっと彼となら乗り越えられるはずだ。
「次の締切いつだったっけ」
「一週間後だよ。急な発注で、その分謝礼は弾むって。……テオドア大丈夫? 間に合いそう?」
「俺を誰だと思ってんだローズ。五日もあれば十分だ」
あれから私はテオドアに改めてプロポーズされてそれを受け入れた。今はテオドアのいる仕立屋で仕事の進捗管理や発注の管理などマネージャー業のようなものをしている。アルペンハイム商会は徐々に規模を拡大しており、今ではドレスや化粧品だけでなくバッグや靴などの皮製品も扱っているらしい。近々宝飾にも手を出すつもりなのだとか。
おかげでテオドアも売れっ子テーラーから超売れっ子テーラーとなり、今や国内だけでなく国外の貴族からも注文が来る。商売が繁盛するのは良いことだが、個人的には体が心配なので今度強制的に休ませるつもりだ。
そうそう、私と縁を切ったルクセンブルク伯爵たちだが、今はなんと牢屋の中にいる。どうやら脱税をしていたらしく、あの結婚披露宴の時にルクセンブルク家だけ違う部屋に居たのも、確実に逮捕するためだったのだとか。人から聞いた話なので確証はないが、今回の逮捕にはある人物が持ってきた証拠品が役に立ったのだとか。……まさか、ね。
――結局私はペロー版ともグリム版とも違う結末を迎えた。と、いうかそもそも私たちは既に結末が決まっている本の中の登場人物じゃなくて、不確定な未来に向かって進む人間なのだから、違うのは当たり前なのだ。『シンデレラ』の継姉は仕立屋に恋なんてしない、でもローザリンデはテオドアに恋をした。この時点で私はシンデレラだのおとぎ話だの、そういう考えにとらわれないでもっと自由に行動するべきだったのかもしれないなぁ……。
「ローズ、それ取ってくれ」
「あ、うん」
テオドアに立ち切狭を渡す。彼は真剣な顔で布に刃を入れると、そのまま適当な大きさに切っていった。そのままスイスイと型紙に沿って布を切り分けていく。素人の私からするとまるで魔法使いのようだ。私が頼んだドレスもきっとこんなふうに作られてきたんだろう。
「……今度さ」
「うん?」
「私にも仕立ての仕方教えてよ。暇な時にちょっとずつで良いからさ」
「良いけど、何でまた急に」
「秘密」
私がそう言うとテオドアは不思議そうな顔をしながらも了承してくれた。
何年かかるか分からないけど、いつかテオドアのための服を作ろう。それで、テオドアには私の服を作ってもらおう。
そして……そうだな。完成した服を着たら二人で感想を言い合って、美味しいものでもを食べに行って、それからまたあの舞踏会の時みたいに二人でダンスでも踊ろうかな。
シンデレラの継姉はワルツを踊る夢をみるか? カウベリー @cowberry
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