第13話
姉が帰省してから半月。
つまりは二週間とちょっとの間、俺はとにかく称号の条件について調べに調べた。
今までにやっていない事をやる。
やっていた事は更に回数を増やす。
そんな風にしてはいたのだが、称号の候補が増えるだけで、肝心の習得には至らなかった。
そのため、俺は条件を一つ一つクリアする事にした。
まずは難易度と条件項目数が少ない『見習いシリーズ』から消化しよう。
◇◆◇ 木こり見習い
木こり見習いの条件項目は以下の通りだ。
1/4
・筋力が15以上 ☆
・斧を手にする
・###
・###
こんな感じで、次の項目以外は出現していない。
この状態を一つ一つクリアしていくのだ。
お使いイベントは大好きだから、特別苦でも無いのだが。
「オノー?」
「そう、斧。とりあえずは父の納屋でも見ようか。」
ノア・オドトンの父は多芸な人間だ。
村を荒らす獣が出れば駆除をするし、簡単な日用品なら作ってしまえる。
手先の器用さは村一番の自慢の父が、斧の一本も持っていない訳が無い。
とはいえ、過保護で頑固者の父が子供にそう簡単に危ない物を持たせるとも思えないので、忍び込む事にした。
「ニンジャごっこだー!ニンニン!」
ハクの言っているニンジャとは、まさしく忍者の事である。
ハクの父親の故郷にはそういった職業があり、いわゆる傭兵の様な仕事をしているらしい。
とはハクの母親から聞いた話だ。
とりあえず、ジャパニーズニンジャという事はなんとなく想像出来たので、深くは追求しなかった。
こそこそと話している間に、例の納屋に到着、中を物色する。
「んん。あった。」
「おー、これがオノー。」
持ってみると、やはり重く持ち上げるにはバランスが難しい。
とはいえ、やはりハクは軽々と持ってしまったのだから、俺の立場が無い。
とりあえず、項目が達成していることを祈り、ステータスを見る。
2/4
・筋力15以上 ☆
・斧を手にする ☆
・木を切る
・###
よしよし、これで次のステップに進める。
俺は斧をその場に放置し、ハクと一緒に森へ向かった。
◇◆◇
「ここは俺の森だな。」
「マキと会った森だー。」
俺の体から現れたマキと、何も知らずに着いて来たハクが談笑する。
俺の目的はここの木。
条件の内容は『木を切る』
決して斧とは書いていない。
なので、斧は放置してきた。
「『サイコキネシス』」
マキとの契約によって得た膨大な魔力を存分に使い、木の一本を捻じ
ただの言葉遊びだが、俺は確信を持っていた。
4/4
・筋力15以上 ☆
・斧を手にする ☆
・木を切る ☆
・木の皮を剥ぐ ☆
ん?
何故か既に条件が達成されていた。
そう気付くと同時に、脳内アナウンスが鳴る。
『称号【木こり見習い】を手に入れたわ。随分熱心に見ていたから、少し間を置いたのだけど。』
「お気遣いありがとう。」
恐らく、『サイコキネシス』で捻じ切った木の皮が剥げた事が判定に引っ掛かったんだろう。
しかし、こんな事もあるんだな。
『ん、お前みたいな称号マニアは今まで見た事は無いが、基本的にステータスに触れる人間が少なかったからな。称号を習得する条件なんて誰も気付かなかったろうよ。』
マキからの助言に、以前聞いた話を思い出す。
ここは停滞した世界なのだ。
外部からの干渉があって初めて前進する世界。
この世界での強者は、生まれの強さのみ。
普通に成長する人間は全て一律となる。
「そうなると、ハクは特別な人間か。」
「ん?そうなの?ハク、トクベツ?」
そう、特別だろう。
だが、俺はそれを更に乗り越える。
『その心意気。頑張って!』
女神の
◇◆◇
かれこれ数日。
俺は絶望に打ちひしがれながら、跪いていた。
問題は、姉との訓練にある。
計五つもの称号を手に入れ、いざ参るとばかりに挑んだ結果が、惨敗。
これがステータスの成長具合だ。
◇ ◆ ◇
HP:20/61
筋力:21×2.21
魔力:66×1.82+1000
敏捷:22×1.56
忍耐:81×1.2
知力:42×1.2
【魔法使い見習い】→【魔法使い】魔力が1.4倍になる。
【鑑定士見習い】知力が1.2倍になる。
【投擲術見習い】筋力が1.2倍になる。
【棍棒使い見習い】筋力が1.3倍になる。
【劣等魔導師】魔力が1.3倍になる。
◇ ◆ ◇
もう以前のステータスは忘れた。
しかし、基礎的な数値は勿論、上昇率も相当に上がった筈だ。
特に基礎値では忍耐がえぐい上がり方をしているし、上昇率なら筋力は二倍を越えた。
それでも尚、姉に勝てない。
何故かも分からない。
「ノア君は、力任せに来すぎなの。体がずっと緊張してる。それだと簡単に筋が読めるし、瞬発力も足りない。」
「どう、いうこと?」
その日は、珍しく姉がアドバイスをくれた。
いつもなら、『がんばれ』とか『ノア君ならできる』といった曖昧な励ましだけだったのだが。
「魔力を使った攻撃も、ちょっと拙い。魔力量はすごいんだけど、勿体ない使い方をしてる。」
「勿体ない?」
「そう、例えば、桶の中の水。」
桶の中の水。
姉がイメージとして出したのは、なみなみに注がれた水という。
そこに、手を突っ込んで皿を洗っているのが俺のやり方だと。
そこで、布に水を染み込ませ、皿を拭き取るのが魔法の優秀な使い方だと。
めちゃくちゃ分かりづらい。
死ぬほど分かりづらい。
例えが悪い上に言いたい事が抽象的というか、具体的すぎて逆に的を射ない。
だが、
「成程、分かったよ。」
「え、ホント!?」
「え、ホント!?」はないだろ。
教えたの自分だぞ。
とはいえ、本当に理解した。
が、我流でやらせてもらう。
「ぬ、ぬぬぬぬ!!」
魔力を一旦遮断。
指先にのみ集中させる。
マッチの光の様に円状になっている魔力を、徐々に固める。
体に軟膏を塗る時に、塗る方向と逆の手の指に着ける様な、そんな感じに。
その範囲を徐々に広げ、伸ばし、薄くする。
それは見る見るうちに全身を覆い包み。
「完成、魔力の鎧。」
「まりょくのよろい?」
「......」
足先でタンタンと二回踏む。
心地の良い足音と共に、右へ回り込もうとすると―――
「ぎゃっ!!?」
「ノア君!?」
俺は勢いの余り庭に生えている大きな木にぶつかった。
しかし、ダメージは無く、木に跡が残るものの、肩や足に負担は無かった。
「大丈夫!?」
「大丈夫!行くよ!」
なんとなくコツを掴んだ気になった俺だったが、それが本当に気のせいだとすぐに知る事になる。
「めぎゃっ!?」
「んぬ!?」
「がっ!!!」
「ぶっ!!」
一歩。たった一歩踏み出すだけで、十数メートルを跳躍してしまう。
しかも、それを行っている俺が認識できない程のスピードでだ。
「ぶべらっ!!?」
俺は途中で魔力を切ってしまい、顔面から地面さんにキスをした。
「ノア君ーーー!!!」
叫ぶ姉の声を聞きながら、俺は気を失った。
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