第11話
姉のイキシアの号泣から、俺は本気で姉の母校に恨みを抱いた。
まあ、イキシアは文武両道、才色兼備を地で行く天使......天才なのだから、仕方ないとは思う。
だが、それとこれとは別問題。
自分の事を棚に上げて他人を貶めるヤツには制裁を下す。
と、今は既にその翌日で、姉も問題なくいつも通りに振る舞っているわけだが。
時折赤面しながらチラチラとこちらを見て来る。
なんだろう、初恋の中学生みたいな反応をされても困る。
「お姉ちゃん!俺にも剣術を教えて!」
「うぇ!?」
「ハクにも教えてたんでしょ!ズルいよ!」
「え、えっと、でも、それは1日だけだったし。」
とりあえず、【上級剣士】の姉に剣を教えてもらう、またとないチャンスだ。
騎士団に正式加入するまでの間は家にいるらしいのだが、その期間はたったの一カ月。
それはいけないと、俺は早朝から姉に『おねだり』をしていた。
「い、いいけど、お姉ちゃん上手く教えられないかも。」
「大丈夫!できるよ!」
「うぅ......そこまで言うなら。」
とりあえず弟妹の特権である我儘を使い、姉を無理矢理外に連れ出し、ハクの元へと連れていった。
◇◆◇
「あ!シアお姉ちゃんだ!久しぶり!」
「う、うん、久しぶりだね。まだ剣は持ってる?」
「持ってる!」
ハクは元気に、使い込まれた木剣を取り出す。
それは、俺との猛攻でかなり傷付きささくれ、ボロボロになっているが、まだ使えるらしい。
厳密には、壊れても俺が魔法で別の物に取り返るのに、ハクが気付いていないだけだ。
材料はゴブリンの使っていた棍棒にも使われる木。
頑丈で長持ちし、水分がすぐに抜けるため、建材にはもってこいなのだとか。
そんな万能建材も
「とぉりゃぁあああ!!!」
木剣にしてしまい、打ち合いに使ってしまえば、直ぐにボロボロである。
少なくとも、既に半壊の域にあったハクの木剣と、姉の借りた俺の木剣は、開始数秒でバキンと折れた。
マジでビビる。
何が恐いって、容赦無く剣を振り回すハクもそうなのだが、それに対して、怯まず、竦まず、目も閉じず、片手に握った剣を使い、打ち合っている。
もう一度言う。
あのコミュ障の様な喋り方をして、内気っぽく、残念美人な姉が、
全力で振り回される剣に、一切の恐怖を抱かず、後ずさりも痙攣も起こさずに、冷静に素早く打ち払っている。
現実が信じられない。
「びゃああ!!負けたぁ!!」
なんということでしょう。
今まで、俺を圧倒しては打撲痕を残していたハクが、俺の姉相手に泣かされている。
というよりも、ここまでになる前のハクとも戦っているのだとしたら、イキシア・オドトンの成長性と洞察力は計り知れない。
「ノア君は、やる?」
「ノァもやろう!」
どうやら、普段は気弱で控えめな姉も、戦闘に関しては乗り気ならしい。
これは、実戦になったら分からないな。
「魔法ってアリかな?」
「えっと、ノア君はその......魔法が使えないって、お父さんが」
あ、あの父親、まさか俺の属性について教えやがったな。
クソッ、姉が明らかに慈愛に満ちた表情をして『背伸びしなくても良いんだよ。』みたいな目をしてる。
「大丈夫。お姉ちゃんも使って良いから。」
「えっそれじゃ怪我しちゃ―――」
「隙ありっ!」
木剣を全力で振り、姉の横腹や、鎖骨辺りを狙うものの、全てが捉えられ、余裕を持って弾かれる。
数回、無茶な攻撃を繰り返しながら、その後ろで魔法を使う。
「ん」
はずだったのだが、俺が浮かしていたハクの木剣が、小さな破裂音と共に、地面に転がった。
「なっ」
「お姉ちゃん、そういう卑怯な手は感心しないな。それに、魔力を使ってるせいで剣に集中できてなかったし、魔力そのものも、単純な線で弾き易かった。」
まさかとは思ったが、姉が俺の魔力を自分の魔力で引き千切ったらしい。
俺の練度も無く、ただ放出しているだけの魔力は、姉のミサンガの様に編み込まれた魔力に負けたのだ。
そして、自分では一生懸命誤魔化していた剣の方も、姉から見れば何か企んで、その作戦に頼っている印象を受けたらしい。
「せめて、魔法を引き出すまではやるよ!」
驚きと慄きを残したまま、俺は昨晩考えた魔法を使う。
「『セルフマリオネット』」
全身に魔力を纏わせ、それを『サイコキネシス』で動かす。
自分の体の動きに併せて魔法を動かす事によって、移動速度や威力を上げる事が目的だ。
「おもしろい......」
「せりゃあああ!!!」
魔法の威力も加えて、渾身の一撃を―――
「なんだろうなぁ......たぶん、その魔法の使い方は悪手だよ。使い慣れて無い魔法をそんな風に使っても、動きづらいでしょ?」
思い切り撃ち返され、俺はハクと同じ様に地面に転げる。
頭を打って集中が途切れたせいで、魔力も綺麗に霧散した。
即興でも、練度が無くとも、今ある全力だった筈だ。
それを、こんな易々と。
「ご、ごめんね!ノア君、すごい本気で来るから、私も返すのにちょっと本気だしちゃった。」
「ちょっと......」
「え、えっと、大丈夫?痛い所は無い?」
「大丈夫だけど......」
「それにしても、ノア君はすごいね!【無】属性魔法なんでしょ?それに、きっと本にも載って無かった事まで自力で、魔力もすごく多い!だから、えっと......」
はぁ、戦いの後で、戦いが終わったから弱気な態度のまま、興奮を隠せない姉。
弟の事を必死になって褒めようとする姉は、すごく美しいと感じた。
のだが―――
「お姉ちゃん、同じ様な事を同級生とかにもしてないよね?」
「え、なんで分かったの?の、ノア君の【無】属性魔法って、そんなことも」
「できないよ。とにかく、今後はそういうの、控えた方が良いよ。」
やれやれ。
これでは嫉妬を集中的に浴びるわけだ。
姉は規格外に強い。
きっと、そこら辺の大人でもここまでは無い。
つまり、この姉からなんでもかんでも搾り取って、俺の成長の糧にすれば。
俺の夢に更に近付けるわけだ。
「え?え?ど、どういうことぉ......?」
「やっぱりなんでもないよ。」
「次はハクがやる!」
「ハクの次は俺だからね!」
俺とハクの、対抗戦(姉)は始まったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます