第10話
ハクと別れ、我が家に到着した。
マキについてどう両親に説明しようかと思った所、どうやらマキはパルエラの様に俺の体に隠れられるらしい。
それはよかったと思ったら、魔力の練習に、周囲に浮かせていた小石や、ゴブリンから取った棍棒があった。
これはどう誤魔化そうかと困っていると、パルエラから声が掛かった。
『【無】属性の魔法にある『ボックス』なんてどう?魔力の量に比例して内容量が決まるから、今のアナタにはぴったりの筈よ。』
「『ボックス』」
詳細を聞くよりも早く発動する。
名前や、簡単な説明だけでもイメージはできたので、問題無い。
目の前に現れた穴に、棍棒や小石を入れていく。
内容量は底知れない。
俺は、誤魔化すために考えていた言い訳を適当に破棄し、家の中に入った。
「ノア!遅かったな!イキシアが帰ってきたぞ!」
おおう?
数年間全然帰郷しない姉が、帰ってきたらしい。
◇◆◇
姉が帰ってきたという吉報を、俺はイマイチ把握しかねていた。
父が言うには、俺やアスタに後ろめたい気持ちがあって帰るに帰れないと。
しかし、結構簡単に帰ってきた。
何より、俺の記憶が戻ってから、つまり物心ついた頃から、姉とは面識が無い。
そのため、情報でしか知らない姉に、どう接すれば良いのか、悩んでいる。
「......」
「......」
その証拠に、家族での食事の席なのにも関わらず、姉も俺も一言も喋れない。
父は姉の久々の帰郷に浮かれっぱなしだし、母はアスタの食事の面倒を見ているため、どちらにも助けは求められない。
「......これ」
姉はぽつりとそう言い、自分の皿に乗っていたトマトを俺の皿に乗せた。
トマトは俺の好物だが、姉は嫌いなのだろうか?
「好き、なんだよね?」
ふむ、どうやら姉は俺の好物だから差し出したようだ。
「お姉ちゃんの分だから、お姉ちゃんが食べて良いよ。」
「......!」
その言葉に姉は驚いた様な表情を見せる。
やはり、トマトが嫌いだったのか?
「も、もう一回、言って?」
「?お姉ちゃん。」
「―――!!」
姉は無表情だったその顔を、真っ赤にして悶えた。
なんだその反応。
「う、嬉しい。」
ふむ、どうやら、情報には無かった事が起きているらしい。
姉は、俺やアスタへの疎外感で距離を置いていたわけではないらしい。
むしろ、初めての弟妹に喜んでいるようだ。
「お姉ちゃんとは初めて会ったけど、今まで何してたの?」
「あ......お姉ちゃんね、学校の勉強が大変だったんだけど、の、ノア君とかアスタちゃんが生まれてから、ノア君達にも学校に通ってほしくて、飛び級したんだ。で、昨日が高等部の卒業式だったから、近衛騎士団に配属されるまでは休暇なんだ。」
お、おう?
何?え、飛び級?再来年から高等部では?
ん?
え、近衛騎士団って兵士団の上の騎士団の更に上の最高機関じゃ?
んんん?
と、とりあえず、事前に聞いていた話とはかなり現実が違い過ぎている。
この姉、相当な天才だと思っていたが、前言撤回、異常な天才だ。
しかも、動機が弟と妹の学費を稼ぐため。
良い人すぎる。
ここは一つ、労いの言葉でも。
「お姉ちゃん、無理しないでね?」
「~~~!!嬉しいっ!お姉ちゃん、頑張るね!」
ちょっとした羞恥心で、言い回しぎみになったが、何故か姉を元気にしてしまった。
見たところ、目の下に隈も無く、過度に痩せたり太ったりはしておらず、金色の髪は純金の様な艶を持っている。
ストレスの面は問題無さそうだ。
「お姉ちゃんって、どれくらい強いの?」
「え?ステータスの事?すごい、小さいのにそんな事を知ってるんだ。」
さり気無く俺を褒める姉だが、ちょっとトチッたかもしれない。
父も母も俺にステータスの事を教えてはいないし、本の中にそんな事は載っていない。
とはいえ、父と母は本が読めず、あの愛読書だって、俺だけが読んでいる物だ。
かといって、
騙すようで心苦しいが、俺には目的があるんだ。隠し事くらいは許してくれ。
「えっとねー今見せるよ。」
◇ ◆ ◇
イキシア・オドトン 十三歳 女 姉
HP:123/123
筋力:93×2
魔力:88×2
敏捷:66
忍耐:79×1.5
知力:43×1.5
幸運:70
適性魔法属性:【火】【水】【光】
固有属性:【強化】【重力】
称号:【上級剣士】【魔道師】
【上級剣士】:筋力が2倍、忍耐が1.5倍になる。
【魔道師】魔力が2倍、知力が1.5倍になる。
◇ ◆ ◇
そのステータスを見た瞬間に、驚いた。
HPは純粋に3桁を越えているし、称号による強化を加えれば4項目が100を越える。
何より、適性魔法属性の欄には三つ。
加護は無いが、その変わりに固有属性がある。
この固有属性の【強化】は、恐らく読んで字の如く。
となると、この姉、イキシアは確実に俺の知っている人間の中で最強だ。
称号も、たった二つなのに、その効果は非常に強い。
「す、すっごーい!お姉ちゃん強いね!」
「え、えへへ、褒められると、嬉しいな。」
「お姉ちゃん、学校では褒められないの?」
「ほ、褒められるっていうか、嫉妬とか、媚の方が多いから......あ、ごめんね、ノア君みたいな子供に言う話じゃなかったね。ごめんね......」
俺は戦慄した。
この姉、闇が深いぞ。
とは言え、確かにその通りだ。
こんなに強い13歳がいれば、甘い汁を啜ろうと近寄る者や、自分と比較して嫉妬してしまい、目の敵にしてしまう者も出て来るだろう。
何より、それがつい出てしまう程に疲れている、のか?
先程の見解では、ストレスは感じていないようだったのだが?
ふむ、実家に帰ったから、安心しているのだろうか。それならそれで良い。
と、嫌な事を思い出させてしまった償いをしないとな。
「お姉ちゃん!」
「は、はい!」
「悪口を言われたら、俺に言って!その人達を倒すから!」
「ふぇ......ありがとぉ......!」
子供らしく、子供らしくと徹したのだが、果たしてこれで良かったのだろうか。
子供らしい子供の時期は幼児期健忘で消え去ったのだから、答えは分からない。
とは言え、姉は喜んでくれたのか、机越しに俺の頭に抱き付いた。
ふむ、13歳にしては相当な発育。
ゲフンゲフン
媚を売る者というのも、実は大半が姉の美貌のせいかもしれない。
イキシアは純金の様な髪とそれに合った宝石の様な碧眼を持つ。
人形、とまでは言わないが、顔のパーツもそれぞれ整い、肌もシミやニキビが無く白く艶やかだ。
身長は高めで、威圧感はあるかもしれないが、それ以上に存在感のある双丘がある訳だし。
声も、美声な上に、高くハッキリとして聞き取れるので、聞き取り易く滑舌も良い。
ふむ、美人だ。
なお、俺は血縁はあるものの、精神的にはほぼ他人なので、身内贔屓や欲目は無い(はず)
「お姉ちゃん、今までそんな風に言われた事無いから、とっても嬉しい。教師も『自分でどうにかできるだろ』って放置してくるしぃ!」
「大丈夫、お姉ちゃんは俺が守るからね。」
どうやら、同級生だけではなく、教師もそんな有様らしい。
結構本気で行動に移そうか......?
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