花よりキミの作ったお弁当

CHOPI

花よりキミの作ったお弁当

「もうダメだ、限界!!」

 とある3月の金曜日の事だった。彼女が突如、そんな発言をするまで、僕はテレビで夜の天気予報を付けていて、『三寒四温って、昔の人はよく考えたよな』と変なところを感心していた。昨日は久しぶりに冷え込んだかと思ったら、今日はめちゃくちゃ温かくて、明日はさらに温かくなるらしい。寒い日が苦手な僕にとっては喜ばしいことで、明日はどう過ごそうか、彼女と相談したいなーなんて暢気に構えていた。


「え、なに、いきなり」

 急な限界発言を聞いて、何事かと身構える。え、僕なにか彼女の気に障るようなことしたっけ??と頭にはてなが浮かぶ。

「イライラが!限界です!!」

 彼女はそう言うと、なので!とさらに付け加えた。

「明日は天気もいいみたいだし。少し早いかもだけど、お花見!します!!」


 ……と、いうことで、次の日の土曜日。いつも朝の弱い彼女は珍しく僕のサポートなしに早起きをして、大きいお弁当箱を出していた。前日、寝る前にご飯をこれでもか!と炊いて、唐揚げのお肉の下準備をし、デザートのグレープフルーツの砂糖漬けを仕込んでいたのは盗み見ていた。


 僕の彼女はストレスがたまると料理で発散する癖がある。特に野菜を切りたいときなんかはすごい。野菜がゴロゴロ入った贅沢なカレーや、山盛りの千切りキャベツを使ったコールスローなどが出てくる。彼女の作るご飯は美味しいから、食べられるのはとっても嬉しいけれど、如何せん作る理由が理由なので、ちょっと心配でもある。まぁでも、なんだかんだたくさん作って満足した後、一緒に食べて『美味しいね』って笑う時間は、ボクも大好きなんだけど。


 今日も今日とて、彼女はそれはそれは気合いの入ったお弁当を作り終えたようで。僕が先に出かける準備を始めていると、それを察したのか満足気な顔をしてキッチンから出てきた。『準備まだでしょ? 準備でき次第、出ようか』と声をかければ『運転、お願いしてもいい?』と甘えられる。それくらいどうってことないし、何なら運転は好きな方なので『もちろん』と返した。


 彼女も僕も、テーマパークや映画館でのデートも大好きだけど、大きめの公園でのんびりするデートも大好きだったりする。冬は寒くてなかなか回数は減ってしまうけれど、だからこそ、春になって温かくなってきた今頃はこういう公園デートが増えてくる。拠点を決めて、レジャーシートを敷くときに、小さな草花がたくさん咲いているのを見ると、ここにも春がちゃんと来ているんだな、なんて嬉しくなってしまうのも今の季節の特権。


「今日は、ここ!」

 この時期、お花見をしよう!って話になると必ず来る公園の奥の方。目立たない位置にもちゃんと桜が植わっているこの公園は結構な穴場で、桜並木の下にシートを敷けば、少し離れた位置には緑も見える。今年もラッキーだ、たくさんのたんぽぽも一緒に見られる。たくさんの薄ピンク色と元気な黄色、それに優しい緑のコントラスト。最高のピクニック日和だ。


「ふふふ、それでは。いただきまーす!」

 花より団子。少し早めのお昼ご飯。朝はこのために二人とも抜いているからおなかもいい具合に空いている。

「うまっ!からあげ、相変わらず、むちゃうまー……!」

「ふふーん、ちゃんと漬けたもんね!」

「あ、おにぎりもうまー!僕の好きなしゃけー!」

「フレークじゃないよ、焼いちゃったもんね!」

「この胡麻和え、香りが良いー!」

「白ごま買ってきて、炒ってごりっごりすっちゃったもんね!」

 ほんの少しのひと手間が、最大限に素材の味を引き出している。彼女の作る料理は、一見難しいものは作っていないけれど、そういう小さなところに嘘をつかないから、本当に美味しいものばかりで。


「今日も美味しいご飯、ごちそうさまです」

「ふふ、まだまだあるから、たくさん食べて。お腹いっぱいになったらバドミントンしよ。で、またおなか減らして残り食べるの」

「りょーかい!」

 彼女の宣言通り、お弁当は食べても食べても一向に減らなくって、二人でひぃひぃ言いながら休憩挟んで、運動挟んで、そうしてまた食べて……。


「早起きだったし、眠くなっちゃた」

 彼女の目がだいぶ開いてないな、なんて思っていたら案の定なお言葉。その言葉を聞いて、少し早いけど撤収の準備を始める。荷物をまとめて車に乗り込んで、帰りの助手席はとても静かだった。


 今日ので少しでもストレスが発散出来ていたらいいな。そう思いながら赤信号で止まったタイミングで、左の彼女の顔を盗み見る。その寝顔はとても穏やかな笑顔だったので、僕まで嬉しくなってしまった。

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