第189話 変わらずの距離感

「ごちそうさまでした」

「けっこう思ったより量あったね」

「そうだね。おかげで腹八分目に近いぐらいだよ」

 店内に入ると意外とすぐに案内され、そのまま注文することが出来たので、僕らはこの店の中で一番量がありそうだと思える異なる味のパスタを大盛りで注文した。

 しかし、ここで少し想定外の事態が発生。

 普段から少食な僕達にとって『今日はお腹がとても減っているから大盛りにしよう』というのは軽い考えのものでまさかこのお店が大盛りの注文で結構な量を乗せられて運んでくるとは思いもしなかった。

「というよりごめんね? 残り、食べてもらっちゃって」

「あー良いよ。僕もそこまで少食って程じゃないし」

 その結果、美結が途中でお腹いっぱいになったことで残すのはあまりにもったいないという事でその残りを僕が食すことになった。

「……えっと、中村君。さっき店に入る前に頼んでみたいと思ってたのがあるんだけど……いい?」

「それってもしかして例の?」

 その問いに対し美結は、多少の気まずさを見せつつ首を縦に振った。

「そうだね。僕も正直食べてみたいっていうのもあるし、注文しよっか」

「うん。すいません!」


* *

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「えっとこのシーソルトパフェっていうのを一つください」

「かしこまりました」

「……それにしても、ついさっきまでけっこう限界ギリギリまで食べてたのに、よくデザートまで注文しようと思うよね」

「まぁね。それによく言うでしょ? スイーツは別腹だって」

「うん、聞いたりはするけど……」

 中村君は苦笑いを浮かべながら私にそう答えた。

 それに残ったパスタを食べてもらったのもあって地味にさっきのパフェを注文するのは多少は気まずさもあった。

 だけどそれ以上にそんな気持ちも超えて、私がそのパフェを注文したのは大きく分けて二つある。

 まずは一つ目。単純にこれを食べてみたかったのがある。何せ水族館という普段から行くことがない人にとってここでの食事が貴重に思える以上、興味をそそられるもにはどれも目移りしてしまうものだ。

 そして二つ目。中村君にあーんでもしてまた動揺して恥ずかしそうにしている彼の反応を見たいからだ。

 逆にこういった場だからそういった事をしたくなるというものだ。



「お待たせしました。シーソルトパフェになります」

 それから中村君と他愛無い話をしている内に注文したデザートが到着。

「おぉ…これが……」

 運ばれてきたそのパフェは下のソーダ? の様な液体の部分は恐らく色的にかき氷のシロップでよくあるブルーハワイというやつだろう。

 そしてそこから上は小さな球体のバニラが少し乗っていてどこを見ても美味しいという感想しか出てこなさそうだ。

「えっと……いただきます」

 見てばっかではなく早速、食べてみようとバニラの部分をスプーンですくい上げ、それを口の中に運ぶ。

「……うん。とっても美味しい!」

 まず味としてはてっとも美味しくて、なんだたったら余裕で一人で食べきれそうなぐらいに味が良かった。

「……」

「えっと……中村君も食べる?」

「え? いいの? 美結が頼んだんでしょ?」

「だけど中村君のおかげでこれを食べれてるわけだし。良いよ?」

「そう? ならお言葉に甘えて……」

「はい。あーん」

「え!? あ、あ〜ん……」

 すかさずに私は彼にあーんする形で食べさせることになって結果的に彼の動揺するような反応を見れて個人的に満足だ。

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