第34話 憧れへの一歩
「いや〜楽しかったね〜占い」
「そ、そうだね……」
占いを一通りしてもらった僕たちは特に行く宛もなく適当にブラブラ見て歩いていた。しかし占いの所でけっこう時間を使ったので、文化祭の一日目はもうじき終わろうとしていた。
それを理解している生徒のクラスは片付けに入ろうとしていた。
「あちゃ〜もう文化祭おしまいか〜早いね」
「おしまいと言ってもまだあと明日と明後日もあるから楽しもうよ」
「それもそっか。ささ、佐藤くん、私達も教室戻るよ――ってもういないし!」
言われて見れば占いの時までは後ろにいたけど気づいたら姿を消していた。
まぁ、一人が好きなあいつらしいけどせめて一声欲しかったな……
「それじゃあ、私は自分のクラス戻るね〜じゃあまた明日〜!」
「うん。また明日」
そう言って北沢さんは上機嫌気味にステップを刻み去っていった。
「……私達も戻ろっか」
「そうだね」
*
「……」
自分たちのクラスに戻るまでの間、私達の間に会話はなくただ淡々っと歩いていた。
歩きながら辺りを見渡すと何かのゲームでゲットしたであろう景品を大事そうに抱える人や、集まって記念写真を撮り、思い出に残し文化祭を存分に楽しんでいる人もいてちょっとだけ羨ましいと思った。
彼の方に目をやると私よりもちょっと前を歩き、その大きな背中を見てとても頼りがいがあって、絵里香とはまた異なる頼もしさを感じた。
さっきの占いの時に占ってくれた人が内容が今も頭の中で再び想起する。
『お互いに無いものをそれぞれで補い合える良い関係ですね~』
確かに中村君は私に無いものを持っている。
誰かの為に必死なるところだったりすれば、結構前向きに何でも挑戦しようとするような行動力も良いなって思える。
文化祭実行委員の件もそうだ。先生からの推薦とはいえ、それでもやると言ったその行動力には尊敬すら思う。だからこそ……
「中村君。手……繋いでもいい?」
「う、うん。いいけど。急だね?」
「ちょっと見習って行動してみようと思って」
「……?」
私の言葉の意図があまり読めていないからか、中村君は不思議そうに首を傾げる。
そのままかれの空いていた右手にゆっくりと自分のてをゆっくり近づけて握る。
……大きくて力強い。けれど優しく握ってくれるこの手が何気に私は好きなのかもしれない。過去にも彼には手を握ってもらうようわがままを言ったことはあったけど今とは状況も考えていることも違う。
「ふわぁ……つ、疲れたぁ」
それから終礼と教室の軽い片づけが終わりいつもより疲れを感じた私は寄り道をすることもせず自室のベッドにダイブした。
ふかふかのベッドに全体重をかけるて段々底なし沼沈んでいくこの感覚がなんだか心地よく感じ、気づけば眠ってしまいそう。
「あ、そうだ!」
眠りこけそうになりながら今日の出来事を思い出す最中一つ、私にとって重要なことを思いだした。
そのことを確認しようと私はクローゼットを開け、丁度真ん中に掛けられていたハンガーとその衣装を引っ張り出した。
「あった!」
そう。私が文化祭のコスプレ喫茶で着るために五十嵐さんと一緒に作ったメイド服だ。
しかし実際に私がこの服に袖を通すことになるのは文化祭最終日である明後日。一応完成した時に一度試着を済ませ、サイズの確認などは終わっている。
とはいえこれをまだ誰かの前で(五十嵐さん以外)着たことはまだない。
実際に着ることになる日には中村君や史野森さん、五十嵐さんがいる中この服装で尚且つ、教室内でとはいえ接客をしなければならない。
だからこそ今の内にそんな自分に慣れておいた方がいい気がする。
「けど……」
あの時、中村君は言ってくれたんだ。メイド服が見たいって。だから、恥ずかしいけど中村君の為に勇気を出そう!
そうして文化祭への決意を改めて固めたところでメイド服に袖を通すことに。
「ん……あれ、なんだかちょっとだけきついような。気のせいかな」
そいえば今日は何回か食べ歩くことはあったけど……
「よし! 着れた!」
着終わったところでどんな感じか鏡越しに自分の姿を確認する。
鏡越しに写る自分を見て『可愛い』『似合ってる』と思っている自分が私の中にいる。
それほど私は自分自身に対して自信をもっているわけではないけれど、今だけはそういった気持ちも薄れゆく。
それに何より私にとってメイド服は小さい頃からの憧れというかもう夢に近いぐらいのものだった。
「写真撮っちゃおうかな……」
もうここまで自分に対するタガが外れていると羞恥心もないので勢いのままにもう楽しもうと思う。
「ん~ こうかな?」
そうして態勢や、手を添える位置など細かい所にこだわりだして結構時間が経った気がする。自撮りなんて初めてやったけど面白いかも……
「お姉ちゃん」。ご飯できた…よ……」
自撮りにハマりそうになってる姉が鏡の前でポーズをしてたら普通、家族ならどう反応するだろう。妹の四遠の場合……
「ごめん……」
一言の謝罪だけでもうリビングに降りようとしていた。せめて弁明させて!
「ちょっと待って! 無言で立ち去らないで!」
それから四遠を説得の為にアイス一本を奢ることになったのは手痛い出費だった……
夕食を食べ終わり自室に戻った美結は疲れを癒そうと猫のクッションに顔をうずめていた。
「今日は本当に忙しかった……」
最初はただ中村君と文化祭を回るだけの一日だと思ってたけど、まさか梓澤さんとまた会うなんて……けどその後は時間があっという間だったなぁ……
「正直梓澤さんのことは……今も苦手だけど中村君が一緒ならきっとなんとかなるはず……」
それにきっと梓澤さんに向き合うことは私にとっても、絵理香にとっても必要な事な気がする……うん。きっと、そうなんだ。
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