番外編 七夕 あなたの願いは何?

 セミが活発に鳴り始め、太陽もこれでもかと私達の体を焼く真夏日和のある日のこと。私は絵里香と一緒に買い物に来ていた。

「暑い〜ねぇ美結、持ってる水頂戴!」

「駄目。これ飲みかけだし、新しいの買いなよ」

「え〜ケチンボ、飲みかけでも別に私は構わないのに」

「それでも私は気にするの。とりあえずあそこの公園で休憩しよう?」

「賛成……涼みたい〜」


 ベンチに涼みながらぼーっとしていると公園のブランコ乗り場にいた子どもたちが何やら盛り上がっていた。

『え、それほんと?』

『今日七夕だし、どうせ今日しかやってね〜よ。さっさと俺たちも書きに行こうぜ〜!』

「あそこの子たち何話してるんだろ〜」

「なんか七夕って聞こえたけど。あれじゃない?地域ごとに短冊をまとめて吊るす感じの」

「あ〜あれね。私も小学生の頃やってたな〜」

「ねぇ。ちょっと後付いていってみない?私、短冊のあれ書きたい!」

「別にいいけど、ああいうのって小学校がやってるのであって私達はできないんじゃないの?」

「どうだろね〜意外と地域で開催する誰でもできます的なパターンかもよ?」

「とりあえず行くだけ行ってみよう」

 それから子供達を追い続けること30分以上。

 これほど長い時間歩いてるのに前にいる二人の子供はへばりもせず平気そうにしていた。

 それに対して私達は既にヘトヘト気味。足を目で捉えるのが精一杯だった。


* * *

「あ……や、やっと着いたよ絵里香」

「ふぇぇ……もう限界……」

 結果として一時間近く私達は燦々と輝く太陽の元歩き続けた終着点は小さな商店街だった。

「小さいけど、いろんなお店あるね」

「だね〜 あ! あれじゃない?七夕の」

 絵里香が指差す先に見えたのは市民センターだった。

 そこには多くの人が集まっており、既に多くの短冊が竹に吊るされていた。すると背後から呼びかけるような声が聞こえてきた。

「こんにちわ〜!」

 そこに立っていたのは大学生のような身なりのお姉さんだった。彼女はラフな服装で肩にはトートバッグをかけていた。

「え…こ、こんにちわ」

「あなた達も短冊を書きに?」

「まぁ……はい。ちなみにここって誰でもできるんですか?」

「そうですね~私もよくここには来るんですよ。あなた達も私と同じ感じ?」

「そうなんです!近くにいた小学生が七夕について喋っていたのが耳に入って」

「なるほどね。私も昔からの友人と一緒に短冊書きに来てるんだ」

 そう言いながら彼女は昔を懐かしむように微笑む。さぞその友人とは非常に親しい関係なんだろう。

「あ、見つけた。それじゃあ私行くね。楽しんでね〜」


「それじゃ私達も書きに行こ!」

「うん」

 それから人が密集しているテントの付近へ向かうと何色にもあるカラフルな短冊が置かれていた。

 近くに置かれている白紙には『ご自由にどうぞ』の文字が表記されていた。

「書きに来たはいいものの、何書こう……」

「考えてないのに来たの?」

「そう! ぶっちゃけ考えなしに来たよ、けど夏の風物詩として七夕の行事は欠かせないでしょ!」

「絵里香ってたまにそういう考え無しに動くところあるよね……」

「えへへ〜それほどでも。」

「褒めてない。それで、どうするの?」

「う〜ん…………あ、閃いた!」

「何々?どんなの書くの?」

「ふふ〜ん。秘密〜!」

 絵里香は顔をにまにまとさせながら短冊にペンを向けた。

「私もそろそろ書き始めよう」

 とは言ったもののこれといった願望と呼べるものはあまりない。

 しかし書かずに帰るわけにも行かず、うんうんと声を上げながら思案を続ける。

「シンプルなことを書こうかな」

 何も願望を書かずとも無難なことも書いても問題ないのだ。

「美結も書くこと決めた感じ?」

「うん。無難に今年平和に過ごせますようにって」

「え〜なんかしたい事とか欲しいものとかないの?」

 そう聞きながらこちらを見る絵理香の顔はキラキラ輝いていた。

「だって最近は楽しいことばかりだし……これ以上は身に余るし。別にいいかなって」

 それに夏休みは中村君達といろんなことができる。それだけでも私は嬉しさで胸が一杯。

「そっか…まぁそこが美結らしさっでいいと思うけどね。短冊吊るしてくる〜」

 そそくさと子どもたちが集まる場所へと絵理香は姿を消す。

「私らしさ……か。これからも変わらず私らしく平和に暮らせればいいなぁ」

 今の私には中村君や佐藤君。絵理香がいるから前とは違って楽しく平和に過ごせそう……

 爽やかな涼しい風が体を包み込み、見上げると空は綺麗な入道雲で満ちていた。

「ほら、美結。行こ?まだまだ夏は始まったばっかだよ!」

 今年の夏は去年より楽しくなりそうだ。

 

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