第23話
グノスィが選抜試験を行っていたその頃、ルルは二人の少女と向き合っていた。
もちろんそれはトトヌメとネスティ。
前者は黒髪黒目の吊り目でモデル体型の少女。
後者は穏やかなやや垂れた目に金髪ブロンドで怒りとは無縁そうな少女である。
両者は右耳に黒と白のピアスを身に着けて、ドリルヘアのような渦を巻く黒い装飾と、透き通る球体の下に純白の翼を携えて彼女らに馴染んでいた。
「……それで、何の用? 姉さん。この女がいるなんて聞いてないんだけど?」
「私も聞いてない」
「言ってませんからね」
まるでコントのようなやりとりを繰り広げるネスティ。
だが口元には微笑を称えるだけでさしたる反応は示さなかった。
「私も詳細は把握していませんが、ここに二人を連れてくるように言われたのです。とりあえず皆さんで親睦を深めたほうが良いと思ったのですが……」
「そういうことなら私は帰るわ。何かこの女気に食わないのよね」
「私も帰る。グノスィが仕方なくメンバーに入れたから許しただけで私もこの人嫌いだもん」
「はあ? ほんっとムカつくわねあなた。口を開けばあの男の名前ばかり。他人に縋るしか脳がないのかしら?」
「……あなたこそ自分の力では何もできないくせに何言ってるの?」
「なんですって?」
団子屋に響き渡るほど彼女は机を強く叩く。
元々の吊り目をさらに角度を上げて厳しい顔だ。
「だってそうでしょう? そのピアスを付けられるのもあなたがたまたま王の姪だったから。別にあなたじゃなくても良かったはずなのに」
「言わせておけば────っ!」
彼女は感情のままに手を振り上げる。ルルは衝撃に備えて思わず目を瞑る。
しかし予想していた衝撃は訪れなかった。
「そのぐらいにしときな」
突如現れた男がトトヌメの腕を掴んだからだ。
白髪のウルフカット。白シャツにフード付きパーカーを簡素に着た男。
彼はやる気のない雰囲気で面倒くさそうに言った。
「いたっ、離して!」
「店内ではお静かに。常識だろ? まさか王族がそんなことも知らねえなんて……言わせねえからな?」
「っっっ」
「それでここにお前らを呼んだのは俺だったわけだが……黒と紫はホントに相性悪いな」
「どういうことでしょう? そもそもあなたはどなたでしょうか?」
何気なく呟いた男の言葉を拾ってネスティが聞いた。
「俺は橙の
「バーナード・リッチ」
「お? 知ってんのか?」
「世界で最も知られている国際指名手配犯を知らないわけないでしょう?」
「ならどうして聞いたんだ?」
「あなたが自分のことを素直に話すとは思いませんでしたので」
警戒心を籠めて彼女はその素顔を観察した。一見、どこにでも居そうな顔立ち。
邪悪な感情も表に出ていない。内面までは知らない彼女であるがその表情からは何も読み取ることができないでいた。
そもそも彼がどのような罪を犯したのか、それすらも明らかになっていないことが彼女の不安を掻き立てた。
国家機密レベルの情報操作が行われているのか、はたまた彼に関する情報がそもそも少なすぎるのかわからない。
だが何にしても目の前の人物は犯罪者であることには変わりない。慎重に対応しなければ食われるのは己だと理解して彼女は背中が冷たくなるのを感じた。
「ふ~ん。まあいいや。それで、何の話だっけ? ああ、そうだ。黒と紫のことだったな。何も知らねえのも無理はねえが、もう少し自分で調べたらどうなんだ?」
「教えてくださらないのですか?」
「凶悪犯に?」
「ではここに来た理由はなんですか?」
この二人を呼び出した理由はそれ以外にないとばかりに彼女は目を細める。
「頭の回転が速いようで何より。そっちのお嬢ちゃんとは違うねえ」
「なんですって?!」
「そう怒るなって。めんどくせえ。さっきの話に戻すが黒と紫が仲が悪いのはエネアドピアスの特性だよ」
「? どういうことですか?」
「そこは察しが悪いな……各ピアスには特性がある。紫は【冷静】、黒は【激情】ってな風にね」
「私はどうでしょうか」
「白は【平和】。常に穏やかで黒とは両極端にある。こんぐらい言えばもうわかっただろ? 紫と黒は互いに意見が食い違いやすい。喧嘩なんて日常茶飯事になるわけよ」
やれやれとため息をついてリッチはやはり疲れた様子を隠さない。
「それをわざわざ言いにあなたはここにいらっしゃったのですか?」
「もちろん違う。本題はここからだ」
そう言ってリッチは一言断りを入れて懐から宝石の欠片のようなものを取り出した。
「これが何かわかるか?」
「綺麗。でもどこかで見たことがある。……っまさか!」
ルルは宝石を凝視しながら小さく独り言を呟いたが、すぐに驚きの表情へと変わる。
「ああ、これもそれと同じだ。原理はな」
彼はピアスを指さしてそう言った。
「だが原理だけだ。これはただの模造品だった。つまり効果はたかが知れているってことだ」
「でも元の身体能力と合わせたら私たちが不利すぎる……」
「奴らが使えるのは回数付きのやつだけだ。だからって油断できるほど弱くない。というか強い」
「あんたは一体何者なのよ?」
「それを今聞いたところで何にもならんだろ。少なくともそれの使い方は知っている」
「つまり、あなたをメンバーに入れろってこと?」
「それはどっちでもいい。どうせあれはそういう類のもんじゃねえからな」
彼女らは一斉に不可解な表情でリッチを見た。つまり彼の目的は自分たちに使い方を教えることということかとルルは推測する。
「不仲な状態だと
「なら……あなたが教えなさいよ!」
「それが人にものを頼む態度か?」
彼は試すように彼女の目をじっと見た。彼女は一瞬怯んだあと屈辱と言わんばかりに複雑な顔で教えてくださいとお願いする。
「いいだろう。明朝に一人ずつ訓練をする。追って知らせを送る。ちゃんと来いよ?」
彼はそう言ってニヒルな笑みを浮かべ、一本の団子を片手に店を去っていった。
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