第21話

 夢を見ていた。風通しの良い部屋で知らない男が読書をしている。

 彼は数秒で一冊の本を読み終えるとまた次の本へと手を出した。

 そんなことを数度していると、誰かが部屋に入ってきた。

 白髪の男で引き締まった体を押し出すように歩く。

 本を手にしていた黒髪の男は彼に目を向けると笑みを浮かべて歓迎した。

 だが白髪の男は深刻な表情をしていた。

 彼が不思議そうに首を傾けて何事かを呟いた。

 それでも彼の顔は晴れない。ただ苦々しそうに首を横に振るだけ。

 そんな彼に男はそれでも安心させるように肩に手を置いて慰める。

 しまいに彼は男を抱きしめて自分に言い聞かせるように。

 口の動きから推測するに大丈夫と言ってるようで。

 それを何度も噛み締めるように囁いていた。

 しばらくして落ち着いて、白髪の男は静かに部屋を出る。

 黒髪の男はぼうっとその扉を見ていたが、完全に去ったのを確認すると力が抜けたように椅子に崩れる。

 彼は唇が切れてもなお噛み締め続け、自分の無力さを嘆くように。

 ただただ傷も治さずこめかみに青筋を立ててひじ掛けを握るのみ。

 ついには近くにある鏡を殴り、自分の手が傷つこうともお構いなしに鏡の破片が飛び散り、破片を殴って血が流れる。

 そんな様子を俯瞰して見ていた意識は徐々に薄れて霞んでいく。

 そして目が覚めた。

 浮上する意識とともに体が動かせないことに気づいた。

 のしかかるそれを見て今日もか、と嘆く。


「ルル、起きて」

「すーすー」


 人形のように美しい顔立ちに長いまつ毛。

 ストレートの黒髪が鼻をくすぐって少しムズムズする。

 何日も連続でこの体勢になるということは癖か習慣なのだろう。

 悪癖であるのは違いないが。

「はあ」


 あれから数週間が経過した。当初の予定通りネスティとトトヌメに会い、ピアスの適性があったようで彼女らは各々のピアスを手にした。

 仮面を外した彼女らの表情がそのときようやく目に入った。

 妹のトトヌメは身長が高く、首元まである黒髪でほっそりとしたモデル体型だった。

 対して姉のネスティは金髪のブロンドヘアで背は妹にやや劣るが物静かな様子だった。

 エネアドピアスはトトヌメが死体を司る黒で、ネスティは天空を司る白。

 残るは赤、黄、緑、橙、藍の五つ。


 そして国王と一つ約束を交わした。毎年行われている予選についてだ。

 あれは今年も行うこと。ただし形を変えて、だが。

 まず試験の内容は全て私に任せるとのこと。そして補佐役、恐らく監視役だがそれを一名付けること。

 これを踏まえた上で次の3つの条件を満たさなければならない。


 一つ、期間までにメンバーは揃えること。これを満たさなければ任意の人物から選ぶこととする。

 二つ、エネアドピアスの特徴である心身の状態を加味したうえでメンバーは選ぶこと。可能なら正常であることが望ましい。

 三つ、考え得る限り最善のメンバーを選ぶこと。これは最優先とする。


「もしかしたら彼も入れた方が良かったのかもしれないなぁ」


 思い出すのはグレーの長髪の青年。今どこで何をしているのかはわからない。

 だが再び逢見えることを願い、日々全力を尽くすことが将来の成功へと結びつくのではないだろうか。



 ♢♢♢



 やることを終えたグノスィはルルと店の匂い香る城下町で観光していた。

「ルルの着物似合ってるよ」

「ん……ありがと」

 小さく笑って彼女は赤い花が咲く白い着物をはためかせる。

「こっちはどうかな?」

「似合ってる」

 青を強調した着物を見て彼女は端的に答えた。

 それを確認すると再び歩き出す。隣ではコンパクトにアップして花の髪飾りでまとめ上げられた黒髪が左右に動いている。

「あのお店いい匂いする」

「入ってみようか」

 団子屋の看板が見えた。暖簾を押しのけて入ると中は存外広い。

 店は繁盛しているようで客の出入りも多い。

「2名様ですか?」

「はい」

「ではこちらのお席にどうぞ」

 通された畳の席は趣深く、独特なザラザラした壁、漆に似た光沢をもつ机、壁際の瓢箪が印象的だった。

「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼びくださいませ」

「ありがとうございます」

 メニュー表には団子だけでなくぜんざいや甘味が多くあった。

「これとこれがいい」

「みたらしと三色ね。私は抹茶ぜんざいにしようかな」

 呼び出して注文を終えると店員が去っていく。

「もう準備は終わったの?」

「予選の? もちろん。まあ柔軟な思考回路が欲しいから変則的な試験にしたんだけどね。ほとんどの人はあれだけで落ちると思うけど」

「いじわる」

「仕方ないよ。あれぐらい通ってくれる人じゃないと……」

 そう言ってからグノスィはファイルを鞄から取り出した。

「それ、なに?」

「資格をもつもののプロファイルだよ」

 この数週間の間、ただ問題を作ることに励んでいたわけじゃない。

 実は既に事前審査としてエネアドピアスに適性があるものを選出していた。

 あれはどうやら適性さえあれば誰でも耳に装着することは可能であるらしい。

 そのため、人数は大幅に制限できたとはいえ、まだまだ人数は多い。

 その数、なんと千人強。明らかに多すぎる。

 これを五人以下に抑えなければならないうえ、あまりに期間が短い。

 よって一回の試験で大幅に人数制限をかけることに決めた。

「そういえばこの前、試験方式を変えてたでしょ? どうして?」

「ああ、あれはちょうどいい人材を見つけたからね。あれ以上に優れた人はいなかったんだよ」

 

 突破するのは何人だろうか。もしかしたら数十人ほど出てしまうかもしれない。

 しかしそうなった場合には実力順とさせてもらわなければならないが。

 あとはなるように任せるのみ。今はただ、本番を楽しみにしていよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る