勇者パーティー有隣堂
なっとう
第1話 魔王との闘い
ついに魔王城での戦いが始まった。
魔王バンガードに挑むのは我ら勇者パーティー「ヨコハマ有隣堂」の4人。
女性剣士の勇者イークが大剣を構える。
魔法使いのザキが詠唱を始める。
僧侶で治癒魔法使いのマニータが後ろに控えている。
そして従魔でミミズクの魔獣ブッコローがいち早く魔王に向かって駆けて行った。
左の翼を広げながら右の翼に抱えた緑の表紙の本を開く。
すると本から立ち上る黒い煙がブッコローの体を包み始めた。
次の瞬間、ブッコローの体はオレンジ色から漆黒に変化した。
この本にはページごとにアイテムが記されており、疾走することでブッコローの耳に風が作用して能力に変身できるのだ。
漆黒に強化された体で魔王に突っ込んでいく。
魔王は迎え撃つように透明に輝く槍を頭上に掲げる。
一見するとガラス製の槍だが、宝玉のひとつに数えられる「悠久のガラスペン」
元は有隣堂が所属しているガワカナ王国の王室の宝物庫にあったものだが、100年前の魔王軍討伐の際に奪われたもの。
当時の勇者パーティーの賢者が使っていたが、相撃ちで敗れて魔王の手に渡ったものだ。
今回の討伐の目的は魔王を殺すことだが、最低でも悠久のガラスペンを奪還すること。
あらゆる魔法を無詠唱でペン形の槍先から放つことができるレアアイテム。
しかし魔力量が豊富でないと使いこなせない、でも魔王ならば問題ない。
今では魔王の武器として世界中に認識されている。
魔王がブッコローに気を取られている隙を狙い、賢者のザキが攻撃魔法を放つ。
手に持っているのはガラスペン型の杖。
魔王に奪われたガラスペンの劣化コピーで手のひらサイズだが、それでも幾つかの魔法を放てる。
もちろん普段は筆記用具としても使える。魔王が持っている等身大サイズだとできない便利な点だ。
ザキはインク状の液体を魔王に向けて放つ、するとロープのように魔王の体を絡めるように巻き付く。縦横にまるで雑誌の紐かけのように魔王の動きを止める。
魔王は悠久のガラスペンを頭上に掲げたまま固まった。
無詠唱でも槍先が相手に向かなければ魔法は当たらない。
そして勇者イークが素早く聖剣「マツケンガー」で魔王の首を刎ねた。
コロコロと床に転がった魔王の頭からマスクが外れて素顔が現れた。
黒髪のおかっぱで黒ぶち丸眼鏡の色白細身な男。
イクが近寄って確認すると、魔王の目がパッと見開いた。
「ハハハハ、今回はおとなしく消えるが再び復活した時はこうはいかんぞ。
言っとくが、その悠久のガラスペンは偽物だ。
本物は遠くのダンジョンコアとして隠してある。
もし我が復活するまでに探し当てたらたいしたものよ。
もちろん我が復活した時は我のモノになるがの」
「なぜ使わずに隠したのだ、無くても勝てると思ったのか」
「フっ、単純なことよ、あれはまだ未完成なのだ。ダンジョンコアで魔素を取り込み続けると更に大きな力を得ることができる。
人間程度ならばそれの程度でも充分だろうが、我にとっては物足りないからのう。
それには長い年月を必要とするが、ただ待っているのもなんだし眠りについた方が楽だからな。
しかも我は復活する度に若くなるのだ。ただし誰かに討たれなければ復活できないからの」
「なんと、それで簡単に敗けたのだな?」
「そういうことよ、それでは再び会おうと言いたいが、おぬしらの寿命ではそうもいかぬか」
最後にそう言って魔王は消滅した。
勇者たちは目的を果たしたが、はるか未来に再び危機が訪れることを知った。
阻止をするには魔王が復活する前に悠久のガラスペンを探し出さないといけない。
新たなる使命が下された瞬間でもあった。
「なんかあっさりと決着がついたからおかしいと思ったんですよ」
賢者ザキが眼鏡のレンズを磨きながらつぶやく。
「僕なんか何にも活躍していないから、いる意味あったんですかね」
僧侶のマニータも同じようにつぶやくが、
「何言っているんですか、マニータさんがいなければ旅の途中の料理や皿洗いは誰がするんですか。
私はできないし、ザキは不器用でセンスが偏っているし、ブッコローはミミズクですからね」
イークはそう言って慰める。
「マニータには旅の記録を残すための漫画を描いてもらわないといけないからな。
じゃないと僕らがどれだけ苦労してたか誰も知ることができない重要なことだよ」
ブッコローがそう言って励ます。
「とりあえず実際魔王は死んだのだから目的は達成した、王へ報告しに戻りますよ」
3人はマニータの気持ちを誤魔化し急いで王都「ヨコハーマ」に帰ることにした。
王城の謁見の間、勇者たちは王の前に並んでいる。
王の名は「マサーヨ・ヒラ」女王である。
「さて報告を聞きましょう」
「ハイ、魔王は確かに滅びましたが、悠久のガラスペンは取り戻すことはできませんでした。
しかし、どこぞのダンジョンにあるということですので探しに向かいたいと思います」
「そうか、それならダンジョン攻略のための新たなメンバーが必要だな。誰かあてはあるのか?」
「いえ、今のところおりません」
「そうか、ならば役立つ者を選んでおいたので紹介するかの」
マサーヨ王は側近に目配せをすると扉の向こうから一人の女性が現れた。
「紹介する、我が国の高等学院を優秀な成績で卒業した「ホタテ・シンカ」だ。
本来なら王宮の文官として働いてもらうつもりだったがな」
「初めましてホタテとお呼びください、若輩者ですが知識量は国内一と自負しておりますのでお役に立つ自信はあります」
「失礼ですがホタテ殿、目的地が見つかっていないのです。どれほどの年数がかかるかわからないのです。もしかすると死ぬまで見つからず次の勇者に託すことになるかもしれません。そうすると何も成果を得られぬまま生きていくことになりますが、よろしいのですか」
「かまいません、書物でしか得ていない私の知識を実際に世界を巡って確認したいですし、何か新しい発見をするかもしれません。ましてやダンジョンなどは簡単に行くことはできませんから。
勇者様という国で一番信頼できる方が一緒であるならば安心ですし」
「わかりました、覚悟があるなら問題ありません」
ホタテが新たに仲間に加わって平均年齢が40代の有隣堂が若返った。
勇者イーク、40代前半だが見た目年齢10歳若く見える女性剣士。
賢者ザキ、50代女性で一番天然ボケ気味の愛されキャラ。趣味はガラスペンに使うインク収集。
僧侶マニータ、教会の司祭待遇の50代だが、絵を描くの趣味。特技は皿洗い。ザキとは幼馴染みという。
ブッコロー、剣士イークがテイムした魔獣。飛べないミミズク。人語を話すことができる。なんでも賭け事にしたがる。
随伴ホタテ、丸いタヌキ顔だが切れる頭脳をもっている。20代女性。特技はマージャン
こうして人類の未来をかけた新たな旅が始まった。
「カントー大陸」のどこかにあるダンジョンを目指して。
勇者パーティー有隣堂 なっとう @bunnkanattou
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