日々是独言

異端者

第1話 山小屋にて

「私たち、死ぬのね?」

 女が呟いた。

「ああ、多分な」

 男は短くそれに答える。

 2人は猛吹雪の中、山小屋に居た。

 しかし、暖を取るための焚き木は残り少ない。

 暖炉では、素知らぬ顔をして炎が燃えている。

 男はぼんやりとそれを見つめた。

 もしこの炎が消えたら、山小屋は寒さに包まれるだろう。

 それまでに助けに来る望みは――限りなく薄い。

「悪い人生でもなかった」

 男はぽつりと言った。

「そう? ……私はまだやり残したことはたくさんあるわ」

 女は不満げだ。

「誰だってそうだろう。遅かれ早かれそうなる。……それが今になっただけだ」

 男はそちらを向かずに言った。

「あなたはそれで満足なの?」

「分からない」

 会話が途切れた。

 外では猛吹雪が音を立てていた。

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