第13話 芽生え始めた恋心とあらたな決意
(どこもおかしい所はないかしら?)
エルシアは鏡の前で、何度も何度もクルクル回ってしまう。
今日のエルシアはいつもより少しだけ華やかだった。
子供時代のドレスを数枚使い、自分でデイドレスにリメイクしてみたのだ。
胸元は薄いピンクで足元にいくほど濃い目のピンクにグラデーションになっている。
普段彼女のドレスは長く着れる紺や黒の物を数着だけ。
だが、久しぶりにクロードに会える今日はそれでは味気ない気がしたのだった。
(……殿下はお疲れのはずよね。本当にいいのかしら)
会いに来ても良いと言われたがお手伝いも断られては、クロードの迷惑にならないかが不安で、体調を伺う手紙を出すのが精一杯だったエルシア。
そんな彼女の待ち人は、急いで来たのだろう、少し汗ばみながら案外早くやって来た。
「エルシア、悪いっ。待たせたかな」
「い、いいえ。ご機嫌よう、殿下」
王城で見るクロードはいつも正装しているが、街歩き用に軽装の彼は黒いシャツにズボンだけ。
ーー殿下の私服姿、初めてみたわ。
思わず見つめてしまうエルシア。
そんな彼女がお洒落をしていることに気が付いたクロードは嬉しそうにエスコートする。
「ああ! 今日は一段と綺麗だな、エルシア」
馬車に乗るために手を取った瞬間の褒め言葉。
途端に、エルシアの頬は赤く染まった。
「ありがとうございます……」
チラッ
(殿下も私服がとってもお似合いです……言えないけど)
目があって微笑むクロードにエルシアは更に赤くなる。
ドキドキドキ
(わたくし、どうしちゃったのかしら。あら? いい匂い……)
隣に座ると、ふんわりと香水の匂いが香る。
この距離じゃないと気付かない程度のほのかな香り。
エルシアは、クロードとの距離もいつの間にか近づいているような気がして、何だか嬉しくなってくる。
「エルシア、ちょっといいか?」
だが、クロードは真顔で隣に座るエルシアを見つめた。
「は、はい」
少し緊張して背筋を伸ばすエルシア。
「今回は、俺が忘れていたせいでドレスをオーダーメイドする時間が足りず申し訳ない」
「そんな! こうして一緒に準備して頂けるだけで十分ありがたいですわっ」
彼女の嘘偽りのない気持ちが素直に溢れる。
クロードはその言葉を聞いて、手で口を覆った。
「エルシア……俺は君の為に出来ることは何でもしたいんだ。だから、せめてブティックでは気に入る物を選んでくれ」
(殿下ーー。もしかして偽装婚約だから、わたくしを気遣って下さってるのかしら)
エルシアは思う。
契約を結び婚約の約束をしているのだから、お披露目パーティーに出るのは当然の事だ。
(そんなの気になさらなくていいのにーー)
最初は、殿下の事を何でも出来てご令嬢達にも人気のある完璧な人だと思っていた。
だが、共に過ごす時間が増えると。
意外に可愛い所とか、こうしてエルシアのことを考えてくれる所にも気が付く。
(カザルス達に会うのは不安だけれど、少しでも殿下のお力になりたい)
そんな心中を知ってか知らずか、クロードは笑いながら茶目っ気に念押しする。
「約束だぞ、エルシア?」
「はい、殿下」
芽生え始めた恋心に自分でも気が付かないように蓋をして、にっこりとエルシアも笑う。
(わたくしに出来ることは、しっかり役目を果たすこと。その為の偽装婚約ですもの)
そうこうする内に馬車は、ブティック・ヴィテスに到着するのであった。
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