第10話 ナデナデしたら、トキメキました


「え?」


 エルシアとケインの声が重なる。


(そんなことで良いのかしら……)



 呆然とする彼女を横目に、ケインとクロードは言い争いを始めた。


「殿下! そんなヘタレでどうするんです!! せっかくのチャンスですよ!? あんな事とかこんな事とか、色々あるでしょうっ」


(あんな事とか、こんな事?)


 エルシアが首を傾げる。


 それを見たクロードは怒ってケインに言い返した。


「女神の前で汚らわしい事を口にするな! 俺はエルシアの手で髪を撫でて貰うのが夢なんだ、何が悪い!!」



(……え? わたくしの手って、癒しの力とかがあったのかしら? いえ、ないわよねぇ)


 しげしげと自分の両手を見つめ、握ったり広げたりするエルシア。



「ハッ。そんなお子ちゃま王子だから、いつまでも進展しないんでしょう? エルシア嬢にもそろそろ愛想をつかされますよ」


 ケインの言葉に、ビクッとするクロード。


(殿下もケインさんも、何が言いたいのかよく分からないけれど……)


 クスクス。


 縋る様な目で見つめてくるクロードを見ていると何だか嬉しい様な、楽しい様な気持ちになるエルシアであった。


 


「殿下、しゃがんで下さいな」


「あ、ああ」


 クロードがしゃがんで小さくなると、エルシアは指先を伸ばす。

 そして滑るようなサラサラした髪を優しく、丁寧に撫でていく。


「幸せだ……」


「うふふ。まぁ、本当に?」


 目を細めてウットリと呟くクロードと恥ずかしげ笑うエルシア。


 そんな二人を離れて見るケインは苦笑いだ。



「ああ。それに、こんなに笑う君を見たのも初めてだから嬉しい」


 トクン


「……もう少し、笑うようにします」


 トクントクン、トクン


(勘違いしちゃ、いけないのに。殿下の優しい言葉にドキドキするーー)



 うぅぅん!!


 そんなエルシアの思考は、ケインの咳払いで中断される。


「エルシア嬢、殿下にご褒美をありがとうございます。さぁ、殿下! これで心置きなく働けますね!」


 ドサドサドサ 


 大量の書類をクロードの机に置いたケインは、いい笑顔だ。


「うぅ。お前は相変わらず、悪魔だな」


 そう言いながらもクロードは、仕事に戻る。

 

「今日はありがとうエルシア。気が向いたらいつでも遊びに来てくれ」


「は、はい」


 こうして、クロードとケインに見送られたエルシアは、よく見ると顔を赤らめながら自宅に戻ったのであった。

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