【完結】婚約破棄された伯爵令嬢、今度は偽装婚約の殿下に溺愛されてます

ゆーぴー

第一章

第1話 殿下に嫌われております、エルシアでございます

「この契約書を持って、俺達の婚約は成立だな」


 逸しそうになりながらも、しっかりとエルシアを見つめるクロード殿下。


「ええ。絶対、誰にも悟られないように気を付けますわ、殿下」


 心地いい風が頬を撫でる、初夏の昼下り。


 伯爵令嬢エルシアはこの国の王太子であるクロード殿下と、とある契約を交わした。



 エルシアの実家は血筋と伝統だけは誇れる伯爵家だ。

 逆に言えば、それしか取り柄のない貧乏伯爵家。



(はっきり言って、富も権力もある殿下は雲の上の人。忘れちゃいけない。だけどーー)




「これから、三年間よろしくね。エルシア」


 少し照れながら、エルシアの片手に口付けをする殿下。



(殿下がこんなに優しい顔をするなんて、知らなかったよ~~)


 赤らんでくる顔を抑えることが出来ないエルシアであった。



 ★


 公爵家子息カザルスにエスコートされたエルシアは王城へ二人の婚約の挨拶に出向いていた。


 謁見の間の前にある控室で順番待ちをする貴族達。


 この国では貴族間の婚約婚姻、養子縁組等重要な決まり事は王族に報告する義務がある。


 エルシアの様に婚約者や親に連れられてきた貴族令嬢達が、噂話に花を咲かせていた。


 彼女達がエルシアにも声をかけて来る。



「クロード殿下をご存知? とても素敵な方よね!」


「本当! 理知的でいつも爽やかで。どうして中々婚約者をお決めにならないのかしら」


「あら、次はエルシア様の番じゃない? 殿下に今からお会い出来るなんて羨ましいわ」



 イケメンな上に誰にも優しく、おまけに有能なため、未婚の貴族令嬢の憧れ。


 それがクロード王太子殿下である。


 だがーーエルシアはと言うと。



(全っ然! 羨ましくなんかないっ)



 何故ならエルシアは殿下に嫌われているのだから。


 コンコン


「この度はご報告があって参りました」


 カザルスの言葉を合図に、カーテシーをとるエルシア。


「ああ。聞いている、カザルスとエルシアが婚約を結んだのだろう。おめでとう」


 忙しい陛下に変わって二人に応対しているクロード殿下は、カザルスに対しては、にこやかだ。


 勇気を出して、視線を殿下に合わせるエルシア。


 フイッ。


(やっぱり、今日もダメ)


 クロード殿下はエルシアだけには、絶対に視線を合わせないし、会話もしない。

 


(わたくし、何かしてしまったのかしら)




 こうしてエルシアは、モンモンとしながら帰りの馬車に乗り込んだのであった。

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