ぼけあるく

エリー.ファー

ぼけあるく

 連続殺人鬼、ぼけあるく。

 よく分からない存在。

 私には理解できない存在。

 おそらく、連続殺人鬼。

 そういう噂があるというだけの話。

 詳しいことは知らない。

 凶器は分からない。

 でも。

 必ず被害者の胴体と首は切り離されている。

 おそらく、即死。

 たぶん、そう。

 ていうか、そんな感じ。

 ぼけあるく。

 なんで、そんな名前なのか分からない。

 ぼけ、という苗字なのかもしれない。

 あるく、という名前なのかもしれない。

 木瓜 歩句。

 もしくは。

 木瓜 アルク。

 推測の域を出ることはない。

 長髪の男性らしい。

 前歯が出ていて、両手をゾンビのように前に出して走る。

 多くの人を笑わせたいと思っているけれど。

 気が付けば。

 殺してしまっている。

 そういう考えらしい。

 私は、ぼけあるくに会ってみたいと思っている。

 どんな手を使っても、サインをもらいたい。

 でも。

 難しいと思う。

 ぼけあるくは、コミュ障らしい。

 話しかけても無視されることが多いらしい。

 私もコミュ障なので、たぶん、会話は成り立たないだろう。

 難しい話だ。

 ぼけあるく。

 一度、自警団と呼ばれる人たちがぼけあるくを退治しようとして、武器を持ち大々的に街をパトロールしたことがあった。

 三日後には、半分以上の団員の首が捻じ切れた状態で見つかり。

 四日後には、もう半分の団員が逃げ出した。

 五日後の午前には、団員の数が四倍以上になり。

 五日後の午後には、自警団を指揮する団長から、他団体から一切の応援がないままに四倍以上に団員数が増えた原因を調査中であると説明があった。

 六日後には、団長が自殺。

 七日後には、団員の数が十倍以上にまで膨れ上がり、自警団からパトロールの一次的な中止の宣言が出た。

 八日後には、団員の数は元に戻り。

 九日後には、団員の両脚だけが街の中央公園の噴水広場に、噴水を中心とした花のように綺麗に並べられた状態で発見された。

 十日後には、ぼけあるくの目撃情報が二千件以上寄せられた。

 私は、ぼけあるくのファンだ。

 でも。

 ぼけあるくは、私のファンではない。

 いつか、私も連続殺人鬼になるのだろう。その時に、ぼけあるくは、私を仲間として認識してくれるのだろうか。少しでも、理解されたいという思いが強くなったら、わたしはぼけあるくに殺される未来を望んでしまうかもしれない。

 もしも。

 本当に、もしも。

 私の中にぼけあるくの片鱗があったとしたら。

 次に現れるぼけあるくは、私なのかもしれない。

 街の平和のために蠢く存在を潰し。

 街の平穏のために生きる自らを崇拝し。

 街の平常のために巡る民を悪戯に払い。

 私は、近づいていくのかもしれない。

 明日も、明後日も、明明後日も、明明明後日も。

 ぼけあるくは、現れてこの街に清潔な恐怖を落とし込みながら、その欲を押し付ける。

 政治家と違う点は、自らの手を汚すこと。

 そして。

 政治家よりも、遥かに役に立たないこと。

 きっと。

 政治家のように、見えない姿を望んでいる、ということ。

 私は、この街のぼけあるくになれるだろうか。

 何代目かのぼけあるくとして、この命を消費できるだろうか。

 気が付けば、誰かのヒーローになり。

 またも憧れを受け。

 自らの地位を築き上げる。

 路地裏の怪人。

 表通りの支配者。

 血に塗れてこその命ではないか。

 あぁ、そうか。





 ヘイ、ミスター。

 明日は我が身か。

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